うしかい座の探し方と神話〜天を支え続けた巨神アトラスの物語

兄弟に財産を奪われ追放されて、世界中をさまよった男の姿である、ともいいますし。また、おおぐま座の物語に登場する、熊の姿に変えられたカリストの息子アルカスであると、彼はこぐま座になっているんですが、そういう説もあります。
また一説では、空を支える巨人アトラスの姿だとも言います。そこで今日は、この、天空を背負う役目を負わされた古き神アトラスの物語をご紹介しましょう。

アトラスは、ゼウスたち、オリンポスの神々よりも以前に世界を支配していた古き神々、ティターン神族もしくは巨神族と呼ばれる神々の一人でした。ゼウスがオリンポスの神々を率いてこの古き神々に戦いを挑んだ時。アトラスは勇敢に戦って、ゼウスたちを苦しめました。が、この戦いに敗れたのち、アトラスはゼウスによって、辛い役目を負わされてしまうんです。

マックスフィールド・パリッシュ『Atlas』(1910年)

マックスフィールド・パリッシュ『Atlas』(1910年)
The Miriam and Ira D. Wallach Division of Art, Prints and Photographs: Picture Collection, The New York Public Library. “Atlas” The New York Public Library Digital Collections. 1910.

それは世界の西の果てで、空を永久にその身で支えていなくてはならないというものでした。アトラスは来る日も来る日も空を背負いつづけて、やがて腰には雲がたなびき,足にはコケが生える姿になりました。

そんなある時、勇者ヘラクレスがアトラスのもとへやってきました。ヘラクレス、もう何度も登場していますが、罪をつぐなうために、12の危険な冒険を果たした英雄です。
彼はこの時、12の冒険のひとつ、「黄金の林檎を取りに行く」という使命を果たしにいく途中だったんですが、その旅の最中で、ヘラクレスは、岩山に縛りつけられて責め苦を負っていた賢者プロメテウスを助けたんです。
プロメテウスというと、人間に火を伝えた神として有名ですね。実はプロメテウスはアトラスの弟にあたるんです。

ウォルター・クレイン『Hercules and Atlas』(1892年)

ウォルター・クレイン『Hercules and Atlas』(1892年)
The Miriam and Ira D. Wallach Division of Art, Prints and Photographs: Picture Collection, The New York Public Library. “Hercules and Atlas” The New York Public Library Digital Collections. 1892.

ヘラクレスに助けられたプロメテウスは、そのお礼に、黄金の林檎を手に入れるには、アトラスに手伝ってもらうといい、とアドバイスしてくれたのです。
やってきたヘラクレスにその話しを聞いたアトラス、

「弟を助けてくれてありがとう。そういうことなら、おれが黄金の林檎を取ってきてやろう、だからその間、かわって空を支えていてくれないか」

と言いました。ヘラクレスは、それならばと、アトラスが戻ってくるまでかわりに空を支えることになりました。

クロード・メラン『アトラスを手伝うヘラクレス』

クロード・メラン『アトラスを手伝うヘラクレス』
“Hercules Assisting Atlas” by Claude Mellan, Public domain, via The Metropolitan Museum of Art

やがてアトラスは林檎を持って戻ってきたのですが、空を支える仕事にいい加減うんざりしていたアトラス、このままヘラクレスに押しつけてしまおうと考えます。
アトラスは

「ものはついでだ、代りにこの黄金の林檎を届けてやろう」

と言って、そのまま立ち去ろうとします。ヘラクレスはその企みを見抜いていましたが、空をかついだままではどうしようもありません。

そこでヘラクレスはアトラスにこう言います。

「おお、それはありがたい。ぜひお願いしたい。ただ、俺は空を担ぐのに慣れていなくて、肩が痛くてたまらないんだ。どうすれば楽に担げるか、ちょっとやって見せてくれないか?」

根が単純なアトラス、

「おお、いいとも見せてやろう、こうやるんだ」

そう言って林檎をかたわらに置くと、慣れた様子で空を担いで見せました。するとヘラクレスは黄金の林檎を拾い上げるやいなや、一目散に逃げてしまったのです。

失敗したと気がついたアトラスでしたが、もう後の祭り。こうしてアトラスは、結局その後も空を支え続ける運命となってしまいました。

エドワード・バーン=ジョーンズ『ペルセウス シリーズ:石に変わるアトラス』(1878年)

エドワード・バーン=ジョーンズ『ペルセウス シリーズ:石に変わるアトラス』(1878年)
“The Perseus Series: Atlas Turned to Stone” by Edward Burne-Jones, Public domain, via Wikimedia Commons

さらに長い年月がたったある日、アトラスのそばを、メドゥサを退治したばかりのペルセウスが通りかかまりした。疲れ果てて、生きる気力を失ってしまっていたアトラスは、ペルセウスに頼んでメドゥサの首を見せてもらいました。

メドゥサの顔を見たものは誰もが石になってしまうことを知っていたアトラス、自ら石になることを望んだのです。
こうしてアトラスは、ようやく、空を支え続けるという仕事から解放されました。

やがてアトラスは天に上げられてうしかい座になりましたが、石となったその巨体の名残となったのが、アフリカ大陸の北西部にそびえる「アトラス山脈」なのだといいます。
アトラスは、今も空を支え続けているんですね。

アトラス山脈

アトラス山脈
On the way to Aït Benhaddou. The Atlas Mountains is a mountain range across the northwestern stretch of Africa extending about 2,500 km through Algeria, Morocco and Tunisia. Tola Akindipe, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ちなみに、地図帳のことを「アトラス」といいますね。これは、地図帳作りが盛んになった16世紀後半、表紙にアトラスの絵をあしらったものが複数現れていたことが元になっているのですが、決定づけたのがメルカトル図法で有名なオランダの地図学者・ゲラルドゥス・メルカトル。

かれも地図帳を出版しようとしたんですが、生前には完成せず、メルカトルはその地図帳が出版できた暁には「アトラス」と名づけるようにと遺言を残しまた。
やがて出版された「アトラス」という名の地図帳が世界中に輸出され、やがて地図帳そのものを表す名詞になったのだそうです。

梅雨の晴れ間があれば、うしかい座のアークトゥルス、見つけることができると思います。空をその身で支え続けたのち、自ら石になることを望んだ巨人アトラス。

いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、梅雨晴れの夜には、星をみあげてみませんか。

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