おおぐま座・こぐま座の探し方と神話〜春を告げる「北斗七星」、熊にされたカリストー

さて、春の宵の北の空にある二つの同じような柄杓の形をした星。
北斗七星を含むおおぐま座と、北極星のあるこぐま座。
この二つの星座は、おおぐまが母親、こぐまがその息子とされています。
同じような形で、大小、ふたつが、近くにある、それで、母と子に見立てたのだと思われますが、この母子については、こんな物語が伝わっています。

紀元前330年頃のヴェルサイユのアルテミス

紀元前330年頃のヴェルサイユのアルテミス
“Diana of Versailles” Commonists, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

登場するのは、月と狩りの女神、アルテミスと、彼女に使える妖精、カリストー。

アルテミスは、つねに弓矢をたずさえて、お供の妖精たちをひきつれて、野山を狩りをして歩くという、勇ましい女神です。

アルテミスは同時に純潔を司る女神でもありましたから、お供の妖精たちも、みな、アルテミスに純潔を誓った乙女たちでした。
そのなかに、カリストーという名の美しい妖精がいました。

ニンフ(妖精)カリストー

ニンフ(妖精)カリストー
“The Nymf Callisto” by Jean-Baptiste Greuze is licensed under CC PDM 1.0 via Nationalmuseum (Sweden’s museum of art and design)

このカリストーに目を付けたのが、神々の王ゼウス。
ヘラというお妃がありながら、たいへんな浮気者で、色恋沙汰のエピソードにはこと欠かない神さまです。
で、またヘラというお妃が大変に嫉妬ぶかい人でして、この二人のキャラクターがギリシャ神話に彩りを与えているという面もあったりするのですが…。

さてカリストーに恋心をいだいたゼウス、なんと、アルテミスに化けて彼女に近づきます。
ちょっと、というか、かなり卑怯な手ですけどもねえ。

首尾よく思いをとげたゼウスは、空高く去って行ったのですが、純潔を失ってしまったうえ、ゼウスの子供を宿してしまったカリストー。
彼女は次第にアルテミスの視線を避けるようになっていきます。

数か月ほどたったある日のこと。アルテミスの一行は狩を終えた後、小川のほとりで水浴びをすることになりました。
カリストーは裸を見られることを恐れましたが、むりにでも水浴びに加わるほかありません。

ルイ・タヴィドゥー『森にあるニンフたちによって囲まれたアルテミス

ルイ・タヴィドゥー『森にあるニンフたちによって囲まれたアルテミス
“Diana goddess of the hunt surrounded by her servants in a luminous forest setting” by Louis Devedeux (French, 1820–1874), Public domain, via Wikimedia Commons

アルテミスはカリストーの体の変化を見のがしませんでした。たいへんな潔癖症で、時として冷酷な一面もみせることもあったアルテミス。
彼女は怒り心頭に発して、カリストーに呪いの言葉を浴びせかけます。

カリストーは、地面に両手をついて許しを乞いましたが、その腕にはみるみるかたい毛がのび、指先はケモノの爪に、泣き叫ぶ声もケモノのうなり声に変わってしまいました。
カリストーは熊の姿に変えられてしまったんです。

それまで連れていた猟犬たちに吼えたてられて、彼女は森へ逃げて行くしかありませんでした。

あてどなく森の中をさまよったカリストーは、やがて密かにゼウスの子、男の子を生み落とします。
しかしながら、熊になった身では育てる事もできません。
彼女は我が子を残し、泣く泣く森のさらに奥へ姿を消すしかありませんでした。

森の猟師に拾われて、アルカスと名付けられたその男の子は、やがて立派な若者に成長し、狩人になりました。

ある日、アルカスが獲物を求めて森を歩いていた時のことです。
熊として森の中で暮らしていたカリストーは、偶然、茂みの向こうからやってくるアルカスを見つけました。
わが子に出会えた嬉しさのあまり、カリストーはつい、自分の今の姿を忘れて、茂みから飛び出してしまいます。

むろん、アルカスには、突然あらわれた熊が、まさか自分の産みの母だとは、知る由もありません。
格好の獲物が現れたとばかり、弓に矢をつがえると、狙いを定めて矢を放ちました。

カリストに矢を放つアルカス

カリストに矢を放つアルカス
Arcas richt zijn pijl op Callisto, Hendrick Goltzius (atelier van), naar Hendrick Goltzius, 1590 is licensed under CC PDM 1.0 via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

天上からその様子をみたゼウスは、危機一髪でアルカスの矢を止めました。
そして、アルカスを小熊の姿にかえて二人を空に上げて、星座にしたのだといいます。

ちなみに、前半お話したようにおおぐま座とこぐま座は、ともにしっぽがとても長いんですが、これは、ゼウスにしっぽをつかんで天に投げ上げられたからだ、とも言われています。

こうして母親のカリストーはおおぐま座に、息子のアルカスはこぐま座になりました。

ところが、日頃から夫ゼウスの浮気を腹立たしく思っていたお妃のヘラは、ゼウスに愛されて星座になったカリストー親子が憎らしくてたまりません。
ヘラは海の神に頼んで、カリストーとアルカスの二人が、他の星座たちのように、一日に一度海の中に入って休むことができないようにしてしまったのです。
このため、おおぐま座とこぐま座は一年中休むことなく、北の空を回り続けることになってしまったのだといいます。

それでも、星座になって空に上がることで、初めて、ともに過ごせるようになった、母と息子。

いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか?

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