ギリシャ神話の三人の月の女神〜アルテミス、ヘカテー、そしてセレネの銀の舟

満月の前後は月がとってもきれいです。
そんな、きれいな月にちなんで、今日はギリシャ神話における月の女神についてお話してみます。

ただ、実はギリシャ神話の「月の女神」ってちょっとややこしいんです。

というのは、ギリシャ神話で「月の女神」とされる存在は複数いるんです。
古い時代の女神がいたり、本来は月の女神ではなかったのに後になって月の女神とされたりしていて、すっきりと「月の女神といえばこのひと!」って言えないんです。

そこで、今日は、そのうち三人の女神についてお話します…
…ええと、神様ですから、ひと柱ふた柱と数えるのが正しいんでしょうけど、どうもギリシャ神話の神さまたちというのは人間くさくて、つい、ひとりふたり、といいたくなっちゃうんですよね(;^_^A
なので、三人、でいきますね。

それは、ヘカテー、セレネ、そしてアルテミス、この三人です。

このなかでいちばん有名なのはおそらくアルテミスでしょう。

紀元前330年頃のヴェルサイユのアルテミス

紀元前330年頃のヴェルサイユのアルテミス
“Diana of Versailles” Commonists, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

本来は弓と狩りの女神、そして純潔の女神でもあり、また同時に、狩りの獲物となる森の獣たちの守り神でもあります。

のちになって、あとの二人の女神と混同または同一視されて、月の女神とされるようになったのですが、その大きな理由のひとつに、三日月があります。

アルテミスがいつも携えていた弓。弓と三日月って似ていますよね。
なので、時として、三日月の弓を持つ女神と言われたり、三日月の女神、とされる事もあります。

アルテミスと三日月については、こんなお話があります。

ある夜のこと、一人の狩人が森の中で道に迷ってしまいました。
途方にくれていると、遠い山の上にかかる細い三日月のなかから銀色に光る女神が現れて、狩人にこう告げました。

「三ヶ月の太っていく矢の指す方向は、いつも西。満月を過ぎて、痩せていく月の矢の方向は、いつも東」
これだけ言い残すとアルテミスは幻のように消えてしまいました。

ギヨーム・セイニャク『女狩人アルテミス』

ギヨーム・セイニャク『女狩人アルテミス』
“Diana, The Huntress” by Guillaume Seignac, Public domain, via Wikimedia Commons

狩人には最初、意味がわかりませんでしたが、やがてハッと気づいて手を打ちました。
つまり、月は三日月から半月、満月へと、弓に矢をつがえて引き絞った形にふくらんでいきます。
そのつがえた矢の示す方向が西なんです。
そして満月を過ぎた月は反対側から欠けていきます。
痩せていく月を弓に見立てると、その矢の指す方向は反対側、つまり東になるんですね。

狩人はもう迷うことなく帰り道を急ぎました。
こうして狩人たちはアルテミスの教えどおり、月夜の森で道に迷うことはなくなったといわれます。
月の弓矢の道しるべ、というわけですね。

つぎに、ヘカテーについて。

ウィリアム・ブレイク『ヘカテー』

ウィリアム・ブレイク『ヘカテー』
“Hecate – The Night of Enitharmon’s Joy” byWilliam Blake, Public domain, via Wikimedia Commons

この女神はちょっとマイナーかもしれません。
というのも、このヘカテーという女神、神話の物語にはあまり登場してこないんです。
古き神々の血をひく女神で、ゼウスでさえも一目置く存在だったと言われます。

ヘカテーは、そもそもは、エジプトで信仰されていた、出産をつかさどる女神が起源であると考えられているようです。
ギリシャにわたってからも、当初は地母神 、すなわち母なる大地の女神だったのですが、次第に、夜の女神、暗闇の女神とされるようになっていきます。

そしてその関係からか、冥界すなわち死者の国と縁の深い女神となっていきます。
時として、地獄の番犬ケルベロスを従えたおそろしい地獄の女神として描かれることもあります。
また、呪いや魔術を司る女神でもあり、魔力が集まる場所とされる三叉路や十字路の守り神でもありました。

このように、ヘカテーは、夜、もしくは闇を象徴する女神だったのですが、アルテミスやセレネと混同されて月の女神と呼ばれるようにもなりました。

月は、「満ちてゆく月」、「満月」、そして、「欠けてゆく月」という3つの姿を持ちますよね。

三日月、すなわち満ちてゆく月をシンボルとする、純潔の女神アルテミスにたいして、ヘカテーは、欠けてゆく月。破壊や消滅を象徴する月を司るとされることが多かったようです。

ギュスターヴ・モロー『ユピテルとセメレ』に描かれたヘカテー

ギュスターヴ・モロー『ユピテルとセメレ』に描かれたヘカテー
A frightful Hecate, with her polos and crescent moon, in the lower left corner of the painting Jupiter and Semele by Gustave Moreau, Public domain, via Wikimedia Commons

また、中世のキリスト教社会では「魔女たちの女王」であるとも言われ、魔女の集会であがめられていた、といいます。
ひじょうに興味深い女神さまですねえ。

さて、もう一人の月の女神、セレネです。
彼女は、月光すなわち月の光の女神でもありました。

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