「アジアの星物語」〜アジアの国々につたわる、星にまつわる物語

アジアの星物語―東アジア・太平洋地域の星と宇宙の神話・伝説星や星座にまつわる物語といいますと、まず思い浮かぶのはギリシャ神話ですね。このコーナーでもギリシャ神話をメインにお話しています。

じっさい、面白い、興味深いエピソードがたっぷりなのですが、じゃあ星や星座にまつわる神話や伝説はギリシャ神話だけかといったら、これはもちろん答えは「N0」なんでありましして、世界中のたくさんの地域・民族に、さまざまな物語が伝わっています。

このコーナーでも、たとえばマヤ神話の月の女神や、中国に伝わる嫦娥伝説をごご紹介していますし、それから皆さんよくご存じの七夕伝説も中国からアジア全般に広まっている、だから欧米にはない伝説なんですね。

ただ、ギリシャ神話の魅力的なエピソードの数々は、これは星座に関連するお藩士に限りませんが、西欧文化の歴史の中で数多く取り上げられ、編集を繰り返されるれるという作業を経てきたために、文学的に磨き上げられてきたという側面もあったりします。

それに比べると、世界のその他の地域の神話は、そこまでは洗練されていないかもしれません、とはいうものの、それぞれの民族に伝わる星にまつわる神話や伝説は、人々の宇宙への思い、自然との交わりや祈り、人の生き方、といったものを歌い上げたものであることは間違いありません。

そんな各地の神話や伝説、なかでも、私たちに馴染み深く関係も深い、アジアの各地域に伝わる物語の輝きを掘り起こして広めていきたい、そんな思いでできあがった一冊の本があるんです。

その名は「アジアの星物語」。

この本を作る国際プロジェクトは、「世界天文年」に定められた2009年に活動がスタート。提案に賛同した各国からの参加者のみなさんがワークショップに参加しました。

このワークショップでは、それぞれの国や地域に伝わる多数の神話・伝説をいったん英語に翻訳して持ち寄り、発表されました。参加は北から順に、モンゴル、中国、韓国、日本、台湾、ベトナム、インド、ネパール、バングラデシュ、タイ、マレーシア、インドネシア、太平洋諸島の13の国と地域です。

その後、参加した国や地域の代表の皆さんがボランティアの国際編集委員として編集作業を行いってきました。そして、今年の2月に、まず全体のモデルともなる日本語版が出版されています。

最終目標の一つである英語版は、ハワイ大学出版局から2015年夏までに出版の予定です。もう一つの最終目標であるアジア参加各国版は、英語版の最終原稿に基づいてそれぞれの言葉に翻訳がおこなわれ、来年以降適宜出版される予定となっています。

ちなみ、現在発行されている日本語版の売り上げの一部は、今後の翻訳・出版活動のための資金援助に充てられます。

気になるこの本の内容なんですが、まず、収録された神話・伝説は合計68話。

全体が大きくパート1/パート2にわかれていまして、パート1は「アジアの人々に愛された星と宇宙の神話・伝説」と題し、それぞれの国や地域で愛されて人気のある、または重要と思われる神話・伝説を国や地域ごとに紹介。

パート2は「太陽、月、星、宇宙と人々」とし、宇宙の創造に始まって、太陽や月、惑星や天の川まで、さまざまな天体ごとに神話・伝説を収録しています。

巻末には、アジア地域の神話/伝説の拝啓となる宇宙観をまとめた解説も付属しています。

さらに、この本では、挿絵も重視されていて、一人の画家に依頼するのではなく、物語を提案した国や地域のアーティストに自由に書いてもらう、というスタイルを採用しています。この挿絵がまた魅力的で、各地域の文化や伝統を感じさせてくれるものになっています。

いかがでしょう。なんとも魅力的なプロジェクト、そして実際にできあがった日本語版、これはインターネットの通販で入手できます。ぼくもネット通販で入手ました。ちなに、定価は本体価格1900円です。

読んでみて感じたのは、やはりそれぞれの地域性。

たとえばおなじ「北斗七星」についての、タイとモンゴルの神話が掲載されているのですが、タイのお話はいかにも仏教のさかんなお国柄らしい伝説で、いわゆる業(カルマ)、そして生前の行いによる輪廻転生、といった仏教的なモチーフが興味深いです。

いっぽうモンゴルに伝わる伝説では、いかにも遊牧民族、騎馬民族らしいモチーフや、遊牧民社会に多い「末子相続」という風習をあらわしていたり、これまたじつに興味深いもの。

また、ストーリーがちょっと飛躍していたり、つじつまが合わなかったり(あれ、さっきまでの話はどうなっちゃったの?なんて思うことも…)、といった面が多々あります。つまり前半でふれたように、ギリシャ神話のように洗練されてはいない。

でもそれは、神話や伝説というもののナマの部分を残している、とも言えるんですね。じつは神話って、矛盾していたり、話が飛んでいたり不完全だったり、ということがよくあります…というより、それはむしろ特質の一つだったりします。そうした部分も味わえる本だと思います。

アジアの国々、地域地域につたわる、星にまつわる物語。じつに豊かなお話が伝わっているものです。人々は昔から、夜空の星にさまざまな思いを託してきたんですね。

いかがでしょう。そんなことを思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

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