くじら座は，秋が深まったころから冬の前半にかけての夜，南の空を大きく覆っている星座です。
全天で4番目という面積をもつ、かなり大きな星座です。
ただし、クジラといっても、ぼくたちがよく知っているあのクジラの姿をしているのではありません。
大きな前脚が生えていて、獰猛な顔つきで、クジラというよりは巨大アザラシといったかんじです。
これは神話に登場する「海の怪物」のすがたなんです。
大きな星座なのにあまり明るい星がなく、星を結んでこのお化けクジラの姿を描き出すのはちょっとばかり骨が折れるかもしれません。
少しばかり難易度の高い星座ですが、がんばってさがしてみましょう。
くじら座は11月下旬から12月上旬にかけての21時から22時ごろ、ほぼ真南、空のなかほどくらいの高さにきています。
手がかりになるのは、秋の四辺形です。
秋の四辺形は、その時間帯であれば、南の空高いところ、真南より少し西にかたむいたあたりに光っています。
４つの辺のうち、東側の辺…向かって左側の辺ですね、この左側の辺を下に向かって二倍ほど伸ばしながらちょっと左のあたりを見てみます。
そうすると、ポツン、といった感じに光っている星があります。
これが「デネブ・カイトス」といって、アラビア語で「鯨の尻尾」という意味の名前の星です。
デネブ・カイトスは２等星の明るさがあるので、よほどまわりが明るい場所でない限り肉眼で普通に見えます。
周囲に目立って明るい星があまりありませんから、比較的かんたんに見つけることができると思いますよ。
デネブ・カイトスが見つかったら、この星を下の基点にしたＶ字がたになるような星の並びがあります。
これがくじらの尻尾のあたり。
そこから、東の方へ、つまり、むかって左の方向へ星をつないでいくと、くじら座の全体像ができあがります。
何度も言いますように、明るい星が少ないですから、市街地では全体を確認するのはちょっと無理です。
ですが、空のじゅうぶん暗い場所でじっくりさがして見つけると、なかなかに雄大な姿をしている星座なんです。
くじら座には、有名な星が二つあります。
ひとつは、お化けくじらの手にあたるところにあるτ（タウ）星です。
「タウ」は固有の名前ではなくて、ギリシャ語のアルファベットです。
これは星の呼び方の規則で、星座のなかで、原則として明るい順に、アルファ、ベータ、ガンマと、ギリシャ語のアルファベットを割り振っていくんです。
ですから、たとえば、織り姫のベガはこと座で一番明るい星ですから「こと座アルファ星」とも言うんです。
ベガのように名前がついている場合はそちらで呼ぶほうが多いのですが、固有の名前を持っていない星は、こんなふうにギリシャ語のアルファベットで識別します。
ただ、単にタウ星、と言ったのではどの星座にあるタウ星かわかりませんので「くじら座タウ星」もしくは「タウ・セチ」ないし「タウ・ケチ」と言います（セチ／ケチ、というのはラテン語に由来する「くじら座の」という意味です）。
この星が有名なのは、まず、太陽によく似た星であること。
そして、太陽系から12光年弱という比較的ちかい距離にあること。
そしてもうひとつ大きな理由があります。
半世紀以上前、1960年に行われた、史上初めての「電波による地球外知的生命体探査」、要するに電波を使ってETを見つけようという取り組みがあります。
「オズマ計画」と名付けられたこのプロジェクトは、地球以外の文明から電波によるメッセージが発信されているかもしれない、それをキャッチしようという試みでした。
プロジェクトで使用されたアメリカ国立電波天文台の26m電波望遠鏡
The 85-foot (26 m) Howard E. Tatel Radio Telescope at NRAO used in the project, by Z22, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
調査の対象として二つの星が選ばれて、そのひとつがこのくじら座タウ星でした。
つまり、この星は、文明を持つ宇宙人が住む惑星を持つ可能性がある、ということで、当時、大変有名になったんです。
しかし残念ながら「オズマ計画」では、文明の証拠となるような電波信号は見つかりませんでした。
その後の研究でも、さまざまなデータから、この星をめぐる知的生命体の存在の可能性は、当時予想されていたほどではなくなっているようです。
ではありますが、ＳＦ作品、小説、映画、マンガなどでは、わりとよく異星人の故郷や、人類の宇宙植民地として登場する星です。
なので、ＳＦのお好きなかたなら（ぼくもそうなんですが）「くじら座タウ星」という名前、ロマンチックに響くのではないでしょうか。
では、もう一つの有名な星についてです。
