アジアの星物語・冬〜オリオン座にまつわる伝説

さて、ではアジアに伝わるオリオン座の物語。

オリオン座はご存知のように極めて特徴的でよく目立つ星の並びです。
とくに、中央にある3つ並んだ星、「オリオンの三つ星」と呼ばれていますが、アジアに伝わる伝説では、この三つ星がお話のメインになっているものが多いんです。

例えばモンゴルに伝わる物語。むかし、フフディという名前の王様がいました。フフディ王は、狙いを定めたものは必ず仕留める弓の名手でした。

ふだん狩りやいくさに出るときは、灰色がかったクリーム色の馬に乗っていた王ですが、あるときたまたま白馬に乗って狩りに出かけました。
すると、王の前に、牝の鹿が三頭、それぞれ子鹿を一匹ずつ連れてあらわれました。王はさっそく追いかけて矢を放ちました。
矢はその中の一頭に命中しましものの、そのまま王は鹿たちを見失ってしまいました。三頭の鹿たちは、空に駆け上がって、オリオン座の三つ星になったのです。

三つ星の少し下に、縦に三つ並んでいる星があり「小三つ星」と呼ばれます。
ギリシャ神話では、三つ星がオリオンの腰のベルトで、小三つ星がベルトに吊るした短剣であるとされますが、このモンゴルの物語では、三つ星が先ほどの牝の鹿たちで、小三つ星は、鹿がそれぞれ連れていた三匹の子鹿だとされています。

また、オリオン座の左上に見えるやや赤みがかった星、ベテルギウスは、このとき王が放った矢だといいます。王の矢は鹿の胴体を突き抜けた、その血の色で、この星は赤みがかっているというのです。

そして、じつはフフディ王は今も鹿を追いかけている、とされています。真っ白な馬に乗った王の星、すなわち純白に輝くシリウスが、三つ星の後を追い続けているのだというんです。
じっさいに星の動きはそのようになっていますから、なかなかよくできたお話ですね。

もうひとつご紹介しましょう、こんどは南に下って、バングラデシュに伝わる物語です。

バングラデシュでは、ヒンドゥー神話に登場する神、プラジャーパティがオリオン座であるとされます。
プラジャーパティは宇宙と全ての生命を作ったとされる最高神です。この神は長い間宇宙を支配していましたが、次第にその力が弱まり、ついにブラフマーという神がプラジャーパティを凌いで最高神の地位につきました。

本来のプラジャーパティは、気品があり憐れみ深く、高い徳をもち、すべての人々から敬愛される神でした。
ところが、こののち、時がたつにつれて、心のなかに邪悪な欲望が広がって、不道徳な行いをするようになってしまいます。

そしてとうとう、自分の娘を誘惑しようと考えます。
娘は父親のよこしまな気持ちを察して、牝の鹿に姿を変えて森のなかに逃げこみます。プラジャーパティはそれを知ると、自分を牡の鹿の姿に変えて、娘を追いかけました。

これを見た天の神々は非常に憤慨し、弓の名手であるルドラという神に、プラジャーパティを懲らしめるよう命じます。
神々の命を受けたルドラはプラジャーパティを見つけると、3本の矢を立て続けに放ちました。矢はすべてプラジャーパティの体を貫きました。
矢が貫いた3つの点は、明るい3つの星になりました。この星は今もオリオン座の中心で一列に並んでいるのです。

また、別の神話では、ルドラが放った矢は、シリウスの上に立っていたプラジャーパティの胴体を貫いて、牡牛座の赤くて明るい星、アルデバランになった、ともいいます。

面白いことに、シリウスと三つ星、そしてアルデバラン、この三者はほぼ一直線上に並んでいるんですね。そんなところから来たお話なのかもしれません。

いかがでしたでしょうか、アジアに伝わる二つのオリオン座の物語。

この「アジアの星物語」という本に収められた物語には、前半でお話した通り、生活に密着したお話が比較的多いんですが、さすがは冬の夜空の代表ともいうべきオリオン座ともなると、王や神々にまつわる物語になるのだなあ、ということ。
そしてもうひとつ、三つ星を追いかけるシリウス、あるいはシリウスと三つ星とアルデバランの並びかたに関連させるなど、やっぱり昔の人は星をよく見ていたんだなあと思わせてくれます。

ということで、また機会があったら別のお話もご紹介したいと思っています。
じつに豊かなお話が伝わっている、アジアの星物語。人々は昔から世界中で、夜空を見上げて、またたく星たちにさまざまな思いを託してきたんですね。

そんなことを思い浮かべながら、晴れた夜には、星を見上げてみませんか。
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