おおいぬ座の探し方と神話〜冬の大三角と、どんな獲物も逃がさない名犬ライラプスの物語

では、おおいぬ座にまつわる物語です。

ギリシア神話ではこの星座は狩人オリオン (オリオン座) の連れていた猟犬であったというお話が最も有力です。
星座の位置関係から見てもうなずける説です。

また、冥界の門を守る犬、つまり地獄の番犬ケルベロスの姿である、とする説もあります。

今日は、もう1つ、どんな獲物も逃がさない名犬、ライラプスの物語をご紹介します。

ギリシャ中央部にあったポーキスという国にすむ狩人ケファロス。
彼はとても美しい青年でした。
そして、彼の妻は月と狩りの女神アルテミスの侍女であるプロクリス。
彼女も素晴らしく美しい女性で、ケファロスとプロクリスはとても愛し合っていました。

ところが、ケファロスに横恋慕した女神がいました。暁の女神エーオースです。
エーオースは嫌がるケファロスを無理矢理自分の宮殿にさらってきてしまいます。
ですが、ケファロスがいつまでも妻のことを口にするので、とうとうあきらめて家に帰すことにしました。

「エーオースとケファロス」

「エーオースとケファロス」
Pierre-Narcisse Guérin – Aurora and Cephalus, Pierre-Narcisse Guérin, Public domain, via Wikimedia Commons

その際、女神は、腹いせにケファロスに呪いをかけたのです。
「せいぜい妻をかわいがってやるがよい。いつかきっと、あんな女のところに戻ったのを後悔する時が来るだろう」
そしてこんなことも付け加えました。
「お前の妻は節操のない女だ。試してみるがいい」

その言葉に不安を感じたケファロスは、エーオースの力を借りて別の男に姿を変えて、旅人を装って妻のもとを訪ねました。
そして、彼女を甘い言葉と豪華な贈り物で誘惑しました。

はじめは夫に操をたてていたプロクリスではありましたが、そのしつこさと贈り物に、つい心が揺らぎました。
そのとたん、ケファロスは元の姿に戻ると、彼女を激しく責めたてました。

ケファロスとプロクリス

ケファロスとプロクリス
Cephalus and Procris,Alessandro Turchi, Public domain, via Wikimedia Commons

プロクリスは、恥ずかしさと怒りのあまり家を飛び出してしまいます。

彼女の主人であるアルテミスは、悲しみにくれるプロクリスを哀れに思い、どんな獲物でも決して逃がさない運命をもつ猟犬ライラプスと、決して狙いを外さない力をもつ槍を持つ槍を与えて、これで仲直りするように勧めます。

プロクリスは家に帰ると、ライラプスと槍を和解のしるしとして夫に贈りました。
狩りが何より好きなケファロスは大喜びで、すっかり機嫌もなおりました。

プロクリスから槍と猟犬を受け取るケファルス

プロクリスから槍と猟犬を受け取るケファルス
Cephalus Receiving the Spear and Hound from Procris, Laurent de La Hyre, CC0, via Wikimedia Commons

ちょうどそのころ、その国に悪いキツネが住み着いて、畑を荒らしたり子供を襲うようになり、人々は困り果てていました。
このキツネは「決して捕まることがない」という運命を与えられていたため、狩人達が何人がかりでも捕らえることができません。
そこで、ケファロスはライラプスを連れてその狐を退治に出かけました。

狐を見つけたケファロス、早速、ライラプスに追わせます。どんな猟犬でも追いつくことのできなかったそのキツネに、ライラプスは見事追いつき、一歩も引けを取らずに追い回します。

しかし、「決して捕まらない狐」と「必ず獲物を捕らえる犬」、この両者の追いかけっこは、なかなか決着がつきません。
すると突然、走りまわっていた狐と犬は凍りついたように動きを止めてしまいます。

これは、それを天から見ていたゼウスが、ライラプスが獲物を取り逃がすことも、狐が捕まることも、運命に反していたため、両者を石に変えてしまったんです。

ライラプスは狐を仕留める事こそできませんでしたが、結果として人々を狐の被害から救うことになりました。
この功績によってライラプスは天に上げられ、星座になったといいます。

さて、その後のケファロスとプロクリス。じつは、先ほどのエーオースの件があってからというもの、プロクリスは夫を信じられなくなっていきました。
あんな方法で自分を試そうとしたり、かと思えば、アルテミスからの贈り物があったとはいえ、いとも簡単に許してくれた。
毎日狩りに出掛けるのは、もしかしたら他の女性と密会するためかも知れない…。

プロクリスの胸に芽生えた疑念は日に日に強くなるばかりでした。

いっぽうのケファロス。
彼は狩りを終えたあと、汗をかいた身体をクールダウンするために、いつも「そよ風よ、わたしの火照りを鎮めておくれ」とつぶやくのが習慣となっていました。
「そよ風」をギリシャ語で「アウラ」と言うのですが、これを伝え聞いたプロクリスは、そのアウラという言葉を女性の名前と勘違いしてしまうんです。

いちど自分の目で確かめなくては、と考えたプロクリスは、狩りに出掛けるケファロスの跡をつけました。
何も知らないケファロス、いつものように狩りを終えると、風に話しかけました。「さぁ、アウラよ、私を癒やしておくれ」
するとその時、草むらの陰で、何か動く音がします。

ファロスとプロクリス

ファロスとプロクリス
Cephalus and Procris, Peter Paul Rubens, Public domain, via Wikimedia Commons

「獲物だ!」と勘違いしたケファロスは、とっさに槍を投げつけました。
決して狙いを外すことのないその槍は、プロクリスの身体に深々と突き刺さります。

過ちに気づいて駆けつけた夫に、プロクリスはこう言い残したといいます。
「どうか私の最後の願いをきいて下さい。その憎らしい「アウラ」とは決して結婚しないで下さい…」

こうしてケファロスは自分の手によって最愛の妻を殺してしまったのでした。
暁の女神エーオースの呪いは、結局成就してしまったんです。

ケファロスとプロクリス

ケファロスとプロクリス
Procris and Cephalus(?), National Gallery of Art, CC0, via Wikimedia Commons

どんな獲物も逃さない運命を持ち、天に上がって星座となった名犬ライラプス。
しかし、その飼い主であった二人は悲しい結末を迎えました。
それは、誤解と猜疑心が生んだ悲劇。

いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか?

タイトルとURLをコピーしました