かに座の探し方と神話〜いいとこなしのカニさん。

さて、季節は春本番。
一般に春の星座とされるなかで一番早く夜空にあらわれる星座、トップバッターといいましょうか、それが、かに座です。

春の星座のトップバッターではあるんですが、かに座は名前が知られている割には目立たなくて探しにくい星座です。
普通の夜空では、その存在をつかむことさえおそらく難しいと思います。

でも「かに座があるはずの場所」の見当をつけるのはさほど難しくないんです。
なので、まずは、あの辺がかに座なんだな、ということを今回は覚えておいていただいて、海や山など、星のきれいな場所においでの機会があったときに、ぜひ探してみてください。

かに座は、3月下旬から4月上旬の夜8時〜9時ごろ、真南の空の高いところにあります。
手がかりになるのは、ふたご座の一等星「ポルックス」と、しし座の一等星「レグルス」という二つの明るい星。かに座はこの2つの星のほぼ中間にあるんです。

まずポルックスを探しましょう。オリオン座の四角形の向かって左上の角の星、ベテルギウスと、オリオンのすぐ左隣にあるこいぬ座のプロキオン、この二つの明るくてわかりやすい星をまず見つけておきます。
オリオン座もこいぬ座も、ずいぶん西に傾いてはいますが、まだ見えていますよ。

そして、ベテルギウスからプロキオンにむかって線を伸ばして、プロキオンのところで直角に上に曲がったところ。ここにある明るい星がポルックスです。

つぎにしし座のレグルスです。ポルックスから左に視線を移していくと、「?マーク」を左右反転にしたような星の並びがあります。
これは「ししの大がま」といって、しし座の顔から胸にかけての部分です。春の夜空でとてもよく目立つ星の並びです。

この「裏返しの?マーク」の一番下の“点”に当たる部分、ここにある星がレグルスです。

ポルックスとレグルスが確認できたら、両者を結んだ線のほぼまんなか、ややポルックスよりのあたり。ここがかに座のある場所です。

とはいえ、市街地はおろか、住宅地ぐらいの空でも、ここにはたぶん何も見えないと思います。
でも、じゅうぶん暗い場所に行きますと、ここに小さな四角形があるんです。
この四角形がかにの甲羅にあたる部分。

この甲羅の周囲に、広げた足に相当する星が点々とあって、これでかに座の完成です。

なにぶん4等星と5等星だけで構成されていて、明るい星がありません。
ただでさえちょっとかすんだような春の夜空、暗い場所であっても、くっきりとはわかりづらい星座です。
ですが、かに座というのは非常に古い歴史をもつ星座で、およそ五千年前のバビロニアの書物にもすでに蟹の姿として登場しているほどなんですよ。

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←かに座の探し方
(gifアニメーション。クリックで拡大します))

さて、かにの甲羅、小さな四角形が確認できるような条件のよい夜空であれば、この四角形のなかに、ぼんやりした光る雲のようなものが見えるはずです。
この天体は「プレセペ星団」といいます。

星団とは、たくさんの星が互いの重力によって集まって集団になっている天体のことで、星々が不規則に集まっているものを散開星団、丸くボールのように集まっているものを球状星団といいます。
プレセペ星団は散開星団で、数百個にもおよぶ星たちがせまい範囲に集まっているんです。

肉眼ではぼんやりとしか見えませんが、双眼鏡でのぞいて見ると、星粒がぎゅっと集まっているようにみえます。
さらに望遠鏡をつかって見ると、宝石をちりばめたように見えて、そのうえ、まるで奥行きがあるように感じられ、吸い込まれるような美しさなんです。
機会があったらぜひご覧いただきたい天体です。

“M44” by gjdonatiello is marked with CC0 1.0

プレセペ星団は、条件がよければ肉眼でも見えることから、古代から知られていた星団の一つです。
大昔はこの星団がかすんでよく見えないときは雨の前兆であるとされた、つまり天気予報に利用されていたともいいます。

ちなみにプレセペという名はラテン語で「かいば桶」という意味で、これはプレセペ星団をかいば桶に、そして、囲んでいる四角形の星をロバに見立てて、ロバが餌を食べているようすに見立ててつけられた名前なんだそうですよ。

肉眼で見ることのできる星団といえば、例えばすばる(プレアデス星団)がありますが、このプレセペ星団はすばるに比べて地球からの距離が遠いんです。
ですから肉眼ではひとつひとつの星まで確認することができません。
ぼんやしりた雲の切れ端のように見えています。

このため、望遠鏡が発明されるまではその正体は謎に包まれていました。
たとえば古代中国では、亡くなった人の魂が集まる場所だと考えられていたそうで、つまり人魂というわけです。
また、古代ギリシアのプラトンの一派は人間の魂が天上と地上を往き来するための出入り口だと考えていたそうです。
どちらも人の魂に関連付けていたところが興味深いですね。

そして、初めてこの天体が星の集団であることを発見したのは、あのガリレオなんです。

よほど条件のいい夜空でないと見えないのが残念ではありますが、かに座の存在がわかって、プレセペ星団が見えるくらいの場所は、きっと空気も美味しい気持ちのいい場所のはず。
そんな場所を訪れる機会があったらぜひご覧になってみてください。

では、いつものようにかに座にまつわる物語についてお話していきます。

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