こいぬ座の探し方と神話〜狩人アクタイオンとアルテミス、そして小さな猟犬メランポス

さて、こいぬ座にまつわる物語です。

星空の配置から言っても、おおいぬ座とともにオリオンが連れていた猟犬であるという説が有力なんですが、もうひとつ、こんな物語が伝わっています。

登場するのは、狩人アクタイオンと、彼が最もかわいがっていた猟犬メランポス。
そして月と狩りの女神アルテミスです。

アルテミスは、つねに弓矢を携えて、お供の妖精たちを引き連れて野山を駆けめぐる、たいへん勇ましい女神さまです。
月と狩りの女神であると同時に、純潔を司る女神でもありましたから、少女のような純粋さがあり、たいへんな潔癖症でもあり、また、時として冷酷な一面もみせました。
そんなアルテミスの気性のため悲劇的な目にあったのが、狩人アクタイオンなんです。

アクタイオンは太陽神アポロンの孫にあたるとされていて、アルテミスはアポロンの妹ですから親戚筋、大伯母さまに当たるわけですね。
彼は神々の血筋を引くだけあって、たいへん有能な狩人でした。そして、その忠実な猟犬であったメランポス。

メランポスは、身体は小さいけれど、主人の言うことをよく聞くとても賢い犬でした。
アクタイオンがしとめた獲物のそばには、いつもメランポスの姿があったといいます。

アクタイオンの像

アクタイオンの像
Statue of Actaeon at Trent Park House, Trent Park, Enfield. This was made c1700, and brought to Trent Park from Wrest Park, Beds by Sir Philip Sassoon. Stu’s Images, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

ある暑い夏の日のこと。アクタイオンは、メランポスを筆頭にした50頭の猟犬たちとともに、山に入って狩りをしていました。
途中、のどの渇きを癒すために水を探して森の奥へ入っていくと、澄んだ水をいっぱいに湛えた泉がありました。
アクタイオンはよろこんで泉に近寄りましたが、なんともタイミングの悪いことに、その泉では、アルテミスとお供の妖精たちが水浴びをしている最中だったんです。

予想外の光景に目を丸くするアクタイオンとふいの闖入者に驚くアルテミス。 二人はばっちり目が合ってしまいます。

ディアナとアクタイオン

ディアナとアクタイオン
Diana and Actaeon, Titian, Public domain, via Wikimedia Commons

もちろん、アクタイオンには、覗き見をしようなんてつもりはまったくなく、偶然のできごとだったのですが、アルテミスは許しませんでした。

アルテミスはアクタイオンをにらみつけると、こう叫びました。
「どこへでも行って、アルテミスの裸を見たと言いふらすが良い。できるものならな!」

そう言い放つと、アルテミスは泉の水をアクタイオンの頭から浴びせかけました。
するとアクタイオンの額からはみるみる2本の角が生えてきました。
耳はとがって毛が生えてきます。
手はひづめのついた獣の足に、そして肌はまだら模様の毛皮に…。
アクタイオンは鹿の姿に変えられてしまったんです。

アクタイオン(『神話のゲーム』より)

アクタイオン(『神話のゲーム』より)
Acteon, from ‘Game of Mythology’ (Jeu de la Mythologie) by Stefano della Bella, Gift of Robert Hartshorne, 1918, Public Domain via The Metropolitan Museum of Art

あわてて泉から逃げ出したアクタイオンのもとに,連れてきていた猟犬たちが駆け寄ってきます。

しかし、犬たちは主人であるアクタイオンに駆け寄ってきたのではなく、獲物である鹿を見つけて襲いかかってきたんです。
その鹿が自分たちの主人が変わり果てた姿だとは夢にも思わないメランポスと猟犬たち。アクタイオンは犬たちに呼びかけますが、犬たちには通じません。
必死で逃げ回ったアクタイオンでしたが、無残にも犬たちにかみ殺されてしまったのでした・・・

人工滝のアクタイオン像(イタリア・カゼルタ宮殿)

人工滝のアクタイオン像(イタリア・カゼルタ宮殿)
Immagine dalla Reggia di Caserta, Caserta, Campania, Italia. Statue e fontane nel parco, Twice25 & Rinina25, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

獲物を仕留めた猟犬たちは、アクタイオンがやってきて誉めてくれるのを、今か今かと尻尾を振りながら待っていました。
中でもメランポスは何日も何日も、鹿のそばを離れずに、ずっと、帰ってこない主人を待ち続けました。

夜空の下で、メランポスは涙で一杯になった小さな瞳で、来るはずもないアクタイオンを待ちつづけました。

それを天で見ていたゼウスは哀れに思い、メランポスを空に上げて星座にしたということです。

こいぬの瞳にあたるゴメイサ、「涙ぐむもの」という名の星。
星座になったメランポスの瞳は、いまも、二度と帰らない主人の面影を追って涙ぐんでいるんですね。

いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

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