しし座の探し方と神話〜ヘラクレスとの戦い、春の大曲線と春の大三角

ではしし座にまつわる物語です。このお話に登場するのはギリシャ神話の英雄ヘラクレス。

ヘラクレスは、自ら犯した罪を償うために12の危険な冒険をするんですが、その最初の冒険が「ネメアの森の人食いライオン退治」。
このお話に登場する人食いライオンがしし座なんです。

木版本『ヘラクレスとネメアのライオン』

木版本『ヘラクレスとネメアのライオン』
“Woodcut printer’s device of the Haeredes Quentelii (i.e. Heirs of Johan Quentel). Appears to depict Hercules and the Nemean lion.” by Provenance Online Project

ヘラクレス自身も星座になっていまして、夏の星座です。
ですので、彼の身の上についてはまたそのとき詳しくお話ししますね。

さて、ネメアの森に棲む人食いライオン。巨大なからだで皮膚は鉄よりもかたいという怪物です。
家畜はおろか村人や旅人を襲うというので恐れられていました。
勇敢にも退治に向かった若者もいましたが、誰ひとりとして生きて戻ってくるものはありませんでした。

この怪物の退治を命じられたヘラクレス、さっそく弓矢と棍棒を持ってネメアの森にむかいます。

『Hercule』

『Hercule』
The Miriam and Ira D. Wallach Division of Art, Prints and Photographs: Picture Collection, The New York Public Library. “Hercule” The New York Public Library Digital Collections. 1880.


ヘラクレスはライオンの居場所を誰かに訪ねようとしましたが、ライオンの姿を一度でも見たものは、みなその場で食べられてしまうものですから、居場所を知る人に会うことが出来ません。
しかたないので、ヘラクレスはたったひとりで、森の中へ入って行きます。

森をさまようこと7日目、ヘラクレスはようやく人喰いライオンに出会います。
ライオンは人を食べて来たばかりなのか、たてがみは真っ赤に染まって、口からは血が滴り落ちています。

ヘラクレスはライオン目がけて矢を放ちますが、鉄のように硬い人食いライオンの皮膚。
まるで岩にあたったかのように矢はへし折れてしまいます。

ライオンは何事もなかったように大きなあくびをひとつすると、ヘラクレスに猛然と襲いかかります。

ヘラクレスは、今度はこん棒をライオンの頭めがけて振り下ろしますが、巨大な棍棒でさえあっさりと折れてしまいました。
それでも、ギリシャ一番の怪力ヘラクレスの強力な一撃に、さすがの人食いライオンも一瞬怯みます。

その隙をヘラクレスは逃しませんでした。とっさにライオンを素手で押さえつけると、その首を両手でぎりぎりと絞め付けます。

ネメアのライオンと格闘するヘラクレス

ネメアのライオンと格闘するヘラクレス
“Hercules wrestling the Nemean lion” The Miriam and Ira D. Wallach Division of Art, Prints and Photographs: Picture Collection, The New York Public Library.

ライオンの鋭い爪で攻撃されても力を緩めず、そのまま三日三晩ライオンの首を締め続けて、ついに退治してしまいました。

こうして、死闘のすえ人喰いライオンを退治したヘラクレス。
証拠の首と一緒に、ライオンの毛皮を剥いで持ち帰りました。
敵とはいえ、ライオンの戦いぶりに感動したヘラクレスは、その毛皮を生涯身にまとうことにしました。

ヘラクレスの絵をみると、肩から布のようなものをかけていて、これがヘラクレスのシンボルともいえるものになっていますが、それはこの人食いライオンの毛皮なのだといいます。

『ライオンのフードを纏ったヘラクレス』

『ライオンのフードを纏ったヘラクレス』
“Heracles With Lion Hood” by edenpictures is licensed with CC BY 2.0.

さて、この、ヘクレスと人喰いライオンの戦いの様子を天から見ていたのが、女神ヘラでした。
ゼウスのお妃さまです。

ヘラクレスはゼウスと人間の女性との間にできた子供です。
夫の浮気の結果生まれた子であることに加えて、ヘラクレスがまたたいへんすぐれた青年だったものですから、なおさら、ヘラはヘラクレスが憎らしくてたまりませんでした。

そこで、ヘラクレスを相手によく戦ったというので、このライオンを空に上げて星座にしました。
こうして、春の夜空を雄大に駈ける、しし座が生まれたと言われています。

春の宵、東の空に姿を見せるころ、しし座はまるで天に駆け上がるように昇っていきます。
そして南の空にあるころには、堂々とした姿を横たえまして、百獣の王の貫禄十分というところ。

ところが、夏の星座になっているヘラクレスが東の空から昇ってくころになると、しし座は大急ぎで西の空へ沈んでいきます。
まるでしっぽを巻いて逃げていくみたいなんです。

ヘラクレスだけはいまだに苦手な、春の夜空の王者。

いかがでしょう。
そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

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