かみのけ座の探し方と神話〜春のダイアモンド(乙女のダイヤ)と王妃ベレニケの神話

さて、かみのけ座に伝わる物語。舞台は紀元前200年ごろの古代エジプトです。

当時エジプトを支配していた国をプトレマイオス朝といいます。
その前にこの地を征服していたのは、古代マケドニア王アレクサンドロス3世、英語風に読むならアレクサンダー大王、有名な人物ですね。

アレキサンダー大王という人は、広大な大帝国を築きながら、突然、病に倒れて亡くなってしまいます。
その後、帝国は分裂していくんですが、このうち、大王の部下であったプトレマイオスという人がエジプトで開いた国、これがプトレマイオス朝です。

このプトレマイオスの孫にあたるのが、プトレマイオス3世。
このひとはたいへん優れたファラオで、首都アレキサンドリアをヘレニズム文化の中心都市にしたことで知られています。
また民衆の人望も厚い王様だったともいわれています。

プトレマイオス3世胸像

プトレマイオス3世胸像
Miguel Hermoso Cuesta, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

そして、このプトレマイオス3世のもとに嫁いできたお妃、その名をベレニケといいます。
この2人によって、王朝は黄金時代を築いていくことになります。

このベレニケ王妃は、みめうるわしい女性でしたが、なかでも、たいへん美しい琥珀色の髪の毛の持ち主として知られていました。
なにしろその髪の美しさは神々でさえうらやむ、と言われるほどだったんです。

ベレニケ2世

ベレニケ2世
Vase fragment depicting Berenike II via The Metropolitan Museum of Art

あるとき、プトレマイオス朝が治めるエジプトと、強国アッシリアとのあいだで戦争が始まりました。
プトレマイオス3世は軍隊を率いて、はるばる遠征に向かいます。

じつはこの戦い、エジプト側の不利がうわさされていたんです。
ですからベレニケは夫の身が心配でたまりません。
彼女は美と愛の女神アフロディーテの神殿をおとずれて、こう祈りを捧げます。

「どうか夫にご加護をお与えください、もしも、夫が無事に戻ってきましたら、この髪を神殿に捧げます」

そして、やがて届いたのは、エジプト軍大勝利の知らせ。
ベレニケは神に感謝し、約束どおり、その美しい髪をバッサリと切って神殿に捧げました。

髪を切るベレニケ2世

髪を切るベレニケ2世
“Berenice II knipt een lok haar af” by Rijksmuseum, CC0, via Wikimedia Commons

ほどなくプトレマイオス3世が凱旋してきます。
ファラオは、ベレニケの美しい髪が失われたことをひどく嘆きました。
するとその翌朝,不思議なことにベレニケの髪の毛は神殿から消えうせてしまったんです。

ファラオは烈火のごとく怒りまして、神殿の神官たちを集めて処刑しようとします。
そこへ宮廷の天文学者が現れて、こう言いました。

「ファラオよ、お妃の髪は、神殿に置いておくにはあまりにも美しすぎるので、世界中の人々に愛でられるようにと、神々によって夜空に飾られたのです。あれをご覧下さい!」

天文学者はそういって夜空に新たにあらわれた星の群れを指差しました。
ファラオはこの説明にたいそう満足し、またベレニケは自分の祈りが神々に届いたことを知って喜んだということです。

これ以来、星空のその部分は、ベレニケの髪、と呼ばれるようになりました。
日本では単にかみのけ座といいますが、じつはこの星座、本来の名前は「Comae Berenices(ベレニケの髪の毛)」というんです。

このベレニケと言う人は、本当に実在の人物なんです。

歴史の中では、夫プトレマイオス3世が亡くなったあと、ベレニケ2世として即位して、そののち暗殺される運命にあります。
彼女の美しい姿は、この時代に作られた金貨に刻まれた浮き彫りとしても残っているんですよ。

金貨

金貨
“Egitto tolemaico, berenice II” by Sailko, CC BY 3.0 via Wikimedia Commons

ちなみに、プトレマイオス朝は、このお話のあと200年近くにわたってエジプトを支配していくことになるんですが、この王朝最後のファラオ、紀元前51年に即位して、紀元前30年になくなったのが、女王クレオパトラ7世。
一般に「クレオパトラ」として知られる、あの女王です。

プトレマイオス朝は血族結婚で血筋を守った王朝と言われていますから、ベレニケは、あの絶世の美女クレオパトラの直系のご先祖様にあたるんですね。

ベレニケの美しい琥珀色の髪の伝説。そして、遥かな銀河を望む「宇宙ののぞき窓」。
いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

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