今日は、ギリシャ神話第一の英雄、ヘラクレスの姿を写した、ヘルクレス座についてのお話です。
えー、いま、ギリシャ神話の英雄「ヘラクレス」と言い、また「ヘルクレス座」ともいいました。これは間違えたわけじゃないんです。
ちょっとややこしいんですが、ギリシャ神話に登場するヘラクレス、この名前は当然ギリシャ語なわけですね、正確には、ヘーラクレース、と、ところどころの伸ばすのが正しいそうですが。
で、このヘラクレスをラテン語の名前にしますと、ヘールクレス、になるんだそうで、星座の名前はこのラテン語名から来ているんです。
ですので、このコーナーでも、神話の登場人物のほうはヘラクレス、星座はヘルクレス座と、呼ぶことにします。
さて。ヘラクレス、まさにギリシャ神話第一の英雄。
なんですが、その姿をとどめるヘルクレス座という星座は、夜空ではちょっと目立たないんです。
この星座は、ほぼ天頂、つまり空の真上を通っていくとても大きな星座で、全天で5番目の面積があるほどなんですが、残念なことにあまり明るい星がありません。
ですから、都市部で見つけるのはちょっと難しいかと思います。
ですが、近くにある星がかなり目立つので、そうした目立つ星を使って、あのあたりにヘラクレスがいるんだな、と見当をつけることはできるんですよ。
7月の上旬から中旬ごろ、ヘルクレス座とおなじようにおおむね真上あたりを通っていくとっても明るい星が2つあります。これはすぐにわかります。
ヘルクレス座はその目立つふたつの星の間をさがせばいい、というわけなんです。
まず、先に真上を通っていくのが、アークトゥルス。春の大曲線、覚えていらっしゃいますでしょうか、まだ見えているんですよ。
アークトゥルスはうしかい座の星でしたよね。全天で三番目の明るさを持つ星です。
春先は、暗くなってきた頃の東の空で輝いているアークトゥルスですが、今頃は、暗くなった頃にはもう頭上を少し通りすぎたあたり、空の真上からやや南西の方角に見えています。これが目印の一つ。
もう一つは、東の空です。
このころ、暗くなってきた頃の東の空でとっても目立っているのが「夏の大三角」。
夏の大三角は、これから先、夏の星座のお話をしていくにあたってしょっちゅう出てきますので、ぜひご覧になっておいてくださいね。
で、この「夏の大三角」のなかでも真っ先に上ってきて、かつ、最も明るい星がこと座のベガ。
この星が七夕の織り姫なんでしたよね。
ベガの明るさは全天で五番目。こちらもとっても明るい星です。
ヘルクレス座はこの2つの明るい星、オレンジ色のアークトゥルスと純白のベガのあいだ、ややベガよりのあたりにあるんです。
もう少し絞っていきましょう。アークトゥルスからベガにむかってゆっくりと視線を移していきます。
1/3ほどいったところに、くるりと小さな円をえがいているところがあって、これが、先月お話した、かんむり座です。
かんむり座を通り過ぎたあたりに、アルファベットの「H」のような形をした星の並びがみつかります。ここがヘルクレス座の胴体にあたります。
そして、夜空の暗いところであれば、とわざざ断りを入れなくちゃならないのが残念なんですが、このHのかたちを中心に、まわりの星をつないでいくと、右手で棍棒を振り上げた英雄ヘラクレスの姿を結ぶことが出来るはず、というわけです。
ちょっと面白いのは、このヘルクレス座、頭を下にして、つまり、さかさまに夜空にかかっているんです。
そのうえ、全体のポーズが、勇ましい姿と言うよりは、腰をかがめて膝を曲げたようで、ちょっと窮屈そうな姿にみえるんです。
これは、一説には、ヘラクレスを憎む女神ヘラ…ヘラクレスはヘラの夫、ゼウスが別の女性に産ませた子どもだったものですから、ヘラはヘラクレスをひどく憎んでいたのですが、ヘラの怒りのためにこんな姿になっているのだ、とも言われるそうです。
ちなみに、ギリシャ語ではヘラクレス、ラテン語ではヘルクレスになる、と先ほどいいましたよね、ではフランス語ではどうなるか。
フランス語はHという文字を発音しないんですね。なのでたとえば、エルメスというブランドがありますが、綴りを見るとHから始まっていて、だからヘルメスとも読めるんですが、でもHは発音しないからエルメス。
じゃあヘラクレスはどうなるか。ヘラクレス、フランス語では、エルキュール、っていうんです。思い当たる人物、いませんか?
そう、アガサ・クリスティが産み出した名探偵、映画にもなった「オリエント急行殺人事件」などで有名ですよね、エルキュール・ポアロ。
あのエルキュールという名前はヘラクレスのことだったんですね。
では、いつものように星座にまつわる物語。ギリシャ神話のヘラクレスの物語はすごく長いお話なんです。
面白いエピソードがたくさんあるんですが、とてもお話しきれませんので、今日はかいつまんでご紹介します。