へびつかい座〜探し方と医学の神アスクレピオスの物語

へびつかい座は、神の国にまでその名を轟かせた名医で、のちに医療を司る神となったアスクレピオスの姿とされています。

アスクレピオス像

アスクレピオス像
Standbeeld van Aesculapius, Luca Ciamberlano, 1636 – 1647, On loan from the Rijksacademie van Beeldende Kunsten, Public domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

アスクレピオスは、太陽の神アポロンと、その妻コローニスの間に生まれました。
アポロンとコローニスの物語、以前ご紹介しました、うそつきからすくんの物語、からす座にまつわる物語に登場します。
このからすは、太陽の神アポロンと、赤ん坊とともに地上に残した妻コローニスとの間の連絡係でした。

アポロンとコローニス(右上にカラス)

アポロンとコローニス(右上にカラス)
Apollo and Coronis by Hendrick Goltzius, Gift of the Estate of Leo Steinberg, public domain via The National Gallery of Art

詳しくは上記リンク先でもご紹介していますが、からすはあるとき道草を食って遅刻してしまい、その言い訳に、コローニスが浮気をしているのを見張っていたから、とでたらめを言ってしまいます。
その告げ口を本気にしてしまったアポロン、いるばずもない浮気相手と見間違えてコローニスを殺してしまうんです。

そのとき、産まれたばかりだった赤ん坊がこのアスクレピオスです。

その事件ののち、母親を亡くしたアスクレピオスは、ケンタウロス族・・・ケンタウロスは、体の半分が人間、半分が馬の姿をした一族です。
そのケンタウロス族いちの賢者と言われ、優れた教育者であったケイロンに預けられます。

アスクレピオスをケイロンに託すアポロン

アスクレピオスをケイロンに託すアポロン
Apollo vertrouwt Asclepius toe aan Chiron, Hendrick Goltzius (atelier van), naar Hendrick Goltzius, 1590, Public domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

アスクレピオスはケイロンのもとで様々な学問を学びます。
とくに医学にたぐいまれな才能を示して、師であるケイロンさえ凌ぐほどのすばらしい医師に成長しました。

ちなみに、この賢者ケイロンも星座になっていまして、同じく夏の星座、いて座として、アスクレピオスのそばに今もいるんですよ。

さて、やがて独立したアスクレピオスは、ギリシャ随一の名医として名を馳せ、多くの人々の命を救い続けます。
そして、彼の医師としての才能と技術の進歩はとどまるところを知りませんでした。
なんと彼は、死者まで生き返らせることができるようになったのです。

ヒッポリュトス(テセウスの息子)を復活させるアスクレピオス

ヒッポリュトス(テセウスの息子)を復活させるアスクレピオス
Aesculapius wekt Hippolytus tot leven, Petrus Clouwet, naar Abraham van Diepenbeeck, ca. 1636 – 1670, Bruikleen van de Rijksakademie van Beeldende Kunsten, Public domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

ところが、これに怒ったのが、冥界の王、死者の国の王様ハデスでした。
そんなことをされたら冥界に死者が来なくなってしまうではないかというわけです。

もちろんアスクレピオスひとりですべての死者を生き返らせることなどできるわけはありません。
ですが、彼は自分の技術を人に伝えることを全く惜しまない人物でしたから、ハデスの懸念も無理はありません。

ハデスは神々の王ゼウスに訴えました。
ゼウスにしても「ひとはみな、生まれ、そして死んでいく」という自然の秩序を乱す行為として、放置しておくわけにはいきませんでした。

ゼウスは、アスクレピオスの技術を惜しみながらも、いたしかたなく、彼を稲妻で撃ち殺してしまいました。

これをあわれんだ父アポロンの願いと、ゼウスも多いに認める医師としての功績が称えられて、空にあげられて星座となり、さらには神々の列に加えられたといいます。

ちなみに、前半にお話したように星座としてはヘビとセットになっているんですが、なぜお医者様がヘビといっしょなのか、といいますと…。

ヘビって、何度も脱皮して成長しますよね。
それで、ギリシア時代では「回復力」や「再生」などといった意味をもち、健康や医療のシンボルとされていたのだそうです。

アスクレピオスはいつも杖を持っていて、その杖には蛇がからみついていたともいわれています。
それで、星座になっても常にアスクレピオスと共にいるのだといいます。

アスクレーピオスの座像(左にシンボルの蛇)

アスクレーピオスの座像(左にシンボルの蛇)
A statue of Asclepius. The Glypotek, Copenhagen. Nina Aldin Thune, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

アスクレピオスは、現在でも、医学の神として、医療の象徴的存在になっています。
彼がいつも持っていた、蛇がからみついた杖は「アスクレピオスの杖」と呼ばれて、医療のシンボルになっています。

たとえば、世界保険機構、WHOのマークは、国連マークの中央にこの「アスクレピオスの杖」が描かれているんです。
そのほか、世界各国で、医師会のマークに使われていたり、救急車の車体に描かれていたり、また、軍医や衛生兵などの記章に用いられていたりするんです。

救急医療のシンボルマーク STAR OF LIFE

救急医療のシンボルマーク STAR OF LIFE
写真AC

アスクレピオスは、いまも、人々の命を救い続けているんですね。

手にしたへびと共に夏の南天を埋め尽くす巨人、へびつかい座。
ギリシャ一の名医、医学の神アスクレピオス。
いかがでしょう。
そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

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