はくちょう座〜夏の大三角、北十字、アルビレオそしてパエトーン

さて、はくちょう座の物語です。
まず有名なのが、神々の王ゼウスの変身したすがたであるというお話。

昔、ギリシャ南部にスパルタという国があり、この国の王様にはレダというお妃がいました。
彼女はたぐいまれなる美女として知られていました。
気の多いゼウス、例によってその美しさに魅了されて、なんとかレダをものにしたいと考えます。

一計を案じたゼウスは愛の女神アフロディーテに協力を頼みます。
ゼウスは自分の姿を白鳥に変え、アフロディーテには鷲に化けてもらってスパルタに向かいました。
白鳥のゼウスは、レダが宮殿の窓辺にいるのを確かめると、彼女の見ている前で、アフロディーテの化けた鷲に、わざと追い回されはじめます。

その様子を見ていたレダは白鳥をかわいそうに思い、腕を広げて白鳥を呼びよせました。
助けを求めてなついてくる美しい白鳥にレダはつい気を許してしまい、ゼウスはまんまとその想いを遂げることができたのです。

フィリッポ・ファルシアトーレ『レダと白鳥』

フィリッポ・ファルシアトーレ『レダと白鳥』
“‘Leda and swan’ by Filippo Falciatore (information 1718-1768) – Duca di Martina Museum at Villa Floridiana in Naples” by Carlo Raso is marked with CC PDM 1.0

このゼウスが変身した白鳥の姿が星座になったと言われています。

その後、レダは卵を2つ生み落とします。

この卵からは、この後の神話世界を彩る人物たちが生まれることになるのですが、そのお話はあらためてご紹介するとしまして、この、美しいレダと白鳥、またはレダと卵、というモチーフは彫刻や絵画などの題材としても好まれて、たくさんの作品が残っていますから、ご覧になったことあるかも知れませんね。

ギュスターヴ・モローによる『レダ』

ギュスターヴ・モローによる『レダ』
“Leda” by Gustave Moreau, Public domain, via Wikimedia Commons

はくちょう座の物語は、この、ゼウスが変身した白鳥のお話が最も有名ですが、実はもうひとつ、悲しい物語があります。

太陽の神アポロンにパエトーンという息子がいました。
人間界で暮らすパエトーン。
自分の父親は太陽の神アポロンであると教えられて育ち、それをとても誇りに思っていました。
ですが、友人たちは誰ひとり、信じてくれません。
パエトーンはそれを確かめるためにアポロンの宮殿を訪ねました。

アポロンはパエトーンを暖かく迎えると、彼が自分の息子であることを認め、その証拠に、願いを1つ何でも叶えてやろうと約束しました。
するとパエトーンは、ともだちに自分がアポロンの息子であることを証明するために、太陽の馬車を操縦しているところを見せてやりたい、と頼みました。

『アポロに太陽の馬車を願うパエトーン』

『アポロに太陽の馬車を願うパエトーン』
Phaeton vraagt Apollo om de zonnewagen, Nicolas Perelle, naar Nicolas Poussin, 1641 – 1695, Public domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

アポロンはたいそう困りました。
とういうのも、太陽の馬車を曳く馬はひどく気性が荒くて、アポロン以外では操ることが難しかったからです。
ですが、約束を破るわけにもいかず、しかたなくアポロンは、十分に気をつけるよう言い含めて、パエトーンに太陽の馬車を操縦させることにしました。

パエトーンの操る馬車は、さっそうと大空へ飛び出して行きます。
はじめは順調に進むかに見えました。そのため、パエトーンはしだいに緊張がゆるんできて、馬車を操っている姿を早く友人達に見せたくなりました。

そこで彼は急に手綱を引くと、本来の通り道をそれて、自分の街へ向かったんです。
この急な進路変更で、馬たちは手綱を取っているのがアポロンでないと気づきます。
その途端、馬たちは暴れだし、空を滅茶苦茶に走りはじめてしまいます。

『太陽神の馬車上のパエトーン』

『太陽神の馬車上のパエトーン』
“Phaeton in the Chariot of the Sun God” Godfried Maes, Public domain, via Wikimedia Commons

太陽の馬車が近づいたものはすべて炎に焼かれてしまいます。
たちまち、多くの森や街が燃え上がりました。

それを天から見ていたゼウスは、やむを得ず、雷の矢で馬車を撃ち落とします。

パエトーンが馬車もろとも落ちたのは、エリダヌス川という大きな川。
パエトーンと馬車は、そのまま川の底へ沈んでいきました。

ルーベンス『パエトーンの墜落』

ルーベンス『パエトーンの墜落』
“The Fall of Phaeton” Peter Paul Rubens, Public domain, via Wikimedia Commons


その様子を地上から見ていたのが、パエトーンの親友、キュクノスです。

キュクノスは、自分がパエトーンを信用しなかったことをひどく後悔して、エリダヌス川に落ちたパエトーンのなきがらを必死で探しました。
ゼウスはいつまでも川の中を探し続ける少年の姿に哀れを感じ、少しでも探しやすいようにと、その姿を白鳥に変えました。

このキュクノスがのちに天に昇って、はくちょう座になったといいます。
そして、パエトーンを探すために、今も天の川の中に首を入れているのだ、と言います。

さあ、あなたはどちらの物語に、想像力をかきたてられますか。
美しい白鳥に姿をかえて絶世の美女レダのもとへ忍んだゼウス、そして彼女がうんだ二つの卵。
あるいは、悲運の死を遂げた親友のなきがらを、白鳥の姿になって今も探しつづける少年キュクノス。

いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

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