マヤ文明、ご存知でしょうか。少し前に、マヤ文明で用いられていた暦の1つが終わることから、「人類滅亡説」なんてものがあったりしたの、ご記憶の方いらっしゃるかもですね。
マヤ文明が栄えた地域はどのあたりかと言いますと、ものすごくざっくりですが、南北アメリカ大陸の繋がってる細い部分ありますね、あの細い部分の真ん中あたり一帯で栄えた古代文明がマヤ文明です。
そして、この地域で広い範囲にわたって語り継がれてきいる神話がありまして「マヤ神話」と呼ばれています。
今日ご紹介するのは、このマヤ神話の月の女神「イシュチェル」です。
イシュチェルは、月の女神であると同時に、水や虹を司る女神であり、機織りの女神であり、また、妊娠と出産とをつかさどる女神ともされています。
イシュチェルという名は「虹の貴婦人」という意味で、五穀豊穣や命の源である母なる神とされる一方、大雨や洪水を引き起こす、死や破壊の象徴であるとも言われています。ですので、時として恐ろしい老婆の姿で表わされたりもするそうです。
ちなみに、月の女神としてのイシュチェルはウサギを連れているんだそうで、ここんところ、なんだか日本の月でお餅をついてるウサギを連想しますよね。
そんなふうに、さまざまな側面を持つマヤの月の女神イシュチェル、今日はその中から、イシュチェルと太陽の神との結婚、つまり月と太陽が結婚したという物語をご紹介します。
マヤ神話によれば、大昔、太陽と月が同じ輝きを見せていた時代があったといいます。月はその時代、太陽と同じように光り輝いていたんですね。
そんな美しく輝く月、イシュチェルに太陽が恋をします。
太陽はイシュチェルの元を訪れたいんですが、彼女には非常に嫉妬深いおじいさんがいまして、このおじいさん、イシュチェルの前に現われる男性は誰であろうと皆殺しにしてしまうという、それは恐ろしい神様だったのです。
そこで太陽は、ある日、ハチドリに変身してイシュチェルに近づこうとします。ですが、途中でおじいさんに見つかってしまい、吹き矢で撃たれてしまいます。
ちょうどその場を通りかかったイシュチェルは、その傷ついたハチドリを胸元に入れて、看病しました。
彼女の胸元で日に日に元気を取り戻していくハチドリを、イシュチェルはしだいに愛し始めていくんです。
やがてすっかり回復したハチドリは、彼女に太陽の神である自分の正体を明かしました。そして恐ろしいおじいさんのいる宮殿を脱け出して大空に逃げよう、と、イシュチェルを誘いました。
こうして太陽と月は連れ立って逃げ、めでたく結婚したのです。
しかし彼らの幸せは長続きしませんでした。
マヤ神話では、金星は太陽の弟ということになっているのですが、この金星が、時々二人のもとを訪れるうちに、美しいイシュチェルにひかれていくんです。
それに気づいた太陽は、イシュチェルのおじいさんどころではないくらい激しく嫉妬します。
その思い込みがエスカレートしていった太陽はとうとうイシュチェルを天から突き落としてしまいます。
地上に落下しそうになったイシュチェルはハゲタカに助けられます。
それが縁で、彼女はハゲタカの王様と結ばれまして、そこでつかのま、幸せに暮らしていたんですが。それも長続きはせず、太陽に見つかってしまいます。
執念深い太陽は、イシュチェルを再び空に連れてかえりました。
そして彼のイシュチェルに対する激しい嫉妬が繰り返されます。
金星との関係をまたも疑ってイシュチェルを激しく責めたてるだけではなく、すばるやさそり座など、他の星や星座と彼女との関係までも疑うようになり、太陽のイシュチェルに対する攻撃的な姿勢はエスカレートするいっぽうでした。
激しく責め立てられたあげく、美しかった彼女の本来の姿はすっかり消えてしまい、輝きを失ってしまいました。そうしてイシュチェルはとうとう太陽の元を離れる決心をしたのです。
そのため、それ以来、月は太陽を避けるように夜のあいだにしか空にあらわれなくなり、また、太陽と同じくらいに明るく輝いていたその明るさは失われてしまったのだと言います。
さらイシュチェルは、妊娠と出産とをつかさどる女神でありつつも、自分自身は何があっても二度と結婚しないことを決め。そして、自分を崇め、祈りをささげてくれる地上の女性たちのために、静かに夜空にありつづけることを誓いました。
ただし、毎月、三日間だけは「安息日」として空から消えることもこのとき決めました。これが今で言う新月です。そして、地上の女性たちも、じぶんと同じように休息を取ることを、彼女は願いました。
こうして、イシュチェルは「すべての女性の守り神」になったのだ、といいます。
とういうわけで…。ちょっとやりきれないようなお話ではありますね。
夫である太陽に責め続けられて、輝きをうしない、それでも、いや、きっと、だからこそ、地上の女性たちの守り神となった月の女神、イシュチェル。
いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、空をみあげてみませんか?