夜空をかける天馬、ペガスス座(秋の四辺形)の探し方〜天馬ペガサスと勇者ベレロフォンの神話

翼をもった天馬ペガサス。星座の名前は「ペガスス」ですが、一般的な言い方「ペガサス」のほうでいきますね。
ペガサスは、勇者ペルセウスが怪物メドゥーサの首を切り落とした時,飛び散る血しぶきの中から生まれたとされています。

じつは、秋の星空には、このペルセウスやアンドロメダ姫が登場する古代エチオピア王家の物語、この物語の登場人物が勢ぞろいしているんです。
今日ご紹介するペガスス座のほか、ペルセウス座、アンドロメダ座 、カシオペヤ座、ケフェウス座、そしてくじら座といった星座たちがそれにあたります。

この、古代エチオピア王家の物語はあらためてご紹介しますが、今日は、ペガサスが登場するもう一つの神話をご紹介します。

それはコリントスの勇者ベレロフォンという若者の物語。


ベレロフォンのレリーフ(アフロディシアス遺跡)

ベレロフォンのレリーフ(アフロディシアス遺跡)
Bellerophon – Aphrodisias. by William Neuheisel from DC, US, CC BY 2.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/2.0>, via Wikimedia Commons

ベレロフォンは、美しく、また武術にも優れた勇気ある若者でした。
あるときベレロフォンは、わけあってとある国の王様のもとに身を寄せることになります。ところが、その王様のお妃さまが、なんと彼に言い寄って来たのです。

誇り高い若者であったベレロフォンはその誘惑をすべてはねつけます。
するとお妃はそれを逆恨みしてしまうんです。彼女は、自分の着ている服を自分でひき裂いて、その姿で王さまのもとへ行くと「ベレロフォンが私を襲おうとしたんです」とウソを告げます。

あっさり騙されてしまった王さま、怒り心頭に発しまして、ベレロフォンを殺してやろうと思います。が、彼は客人あつかいになっていますから、自分の手を汚すわけにはいきません。
そこで一計を案じた王様、お妃の父親を通じて、ベレロフォンに怪物キマイラの退治を命じます。

キマイラというのは、顔がライオンで、胴体は山羊、竜の尾を持ち、口から炎を吐く恐ろしい怪物です。王さまは、いかな勇者ベレロフォンといえどもキマイラを倒せるはずはない、殺されてしまうがいい、と思ったんですね。

そんな怪物と戦うことになってしまったベレロフォン、智慧と戦いの女神アテナに祈りをささげました。
するとその夜、夢のなかにアテナが現れて、天馬ペガサスをとらえてその力を借りなさい、とのお告げをさずけます。
目を覚ますと、彼の手元には黄金の手綱がありました。ベレロフォンはさっそく、ペガサスが現れるという泉に向かいました。

ペガサスは、彼の姿を見ると、翼を広げて飛び去ろうとしましたが、女神に授かった魔法の手綱を投げかけると、とたんにおとなしくなりました。
こうしてペガサスを手なずけたベレロフォン、勇んで、キマイラのもとに向かいました。

ベレロフォンはペガサスにまたがって、上空からキマイラに向かって矢を放ちます。キマイラも口から炎を吐いて応戦しますが、その炎がキマイラの仇となりました。
ベレロフォンが放った鉛の矢が、キマイラの口に刺さり、その口から吐く炎で鉛が溶けて、内臓を焼き尽くしてしまったのです。


「キマイラと戦うベレロフォン」

「キマイラと戦うベレロフォン」
The Miriam and Ira D. Wallach Division of Art, Prints and Photographs: Picture Collection, The New York Public Library. “Bellerophon fights the Chimaera” The New York Public Library Digital Collections. 1865.

こうしてベレロフォンは、キマイラを無事退治することができました。
そしてその後もペガサスと共に、数々のすばらしい功績を残したのです。
はじめは彼を殺そうとした王さまでしたが、のちに、その功績をみとめまして、彼に自分の娘と領土の一部をあたえ、王国の跡継ぎに定めます。

ところが。成功に気を良くしたベレロフォンは、やがて驕り高ぶるようになっていきます。そしてある時彼は、「自分は世界中の誰よりも強い。自分こそが神々の一員となるにふさわしい」と言いはなつと、ペガサスにまたがって、天上界までのぼろうとしたのです。

この不遜な態度に怒ったゼウスは、ベレロフォンに向かって一匹のアブを放ちました。アブは、ペガサスのおしりをチクリと刺しました。するとペガサスは途端に暴れ出して、ベレロフォンを振り落してしまい、そのまま天へ走り去ってしまったのです。

ベレロフォンは、地上へまっ逆さまに落ちていきました。そのまま命を失ってしまった、とも言いますし、命だけは助かったという説でも、彼はこの事故で足が不自┐由となり、また盲目となって荒野を彷徨ったあげく、みじめになくなったといいます。

世界中の誰より強いと思い上がったベレロフォンは、こうして、たった一匹のアブのためにすべてを失ってしまったのでした。

でも、考えてみれば、ペガサスあってこその輝かしい活躍だったわけですしね。いくら強いといっても、成功したといっても、自分だけの力とは限らない。思い上がってはいけませんよ、という教訓めいたお話ではあります。

いっぽう、天まで駆け昇ったペガサスは、そののち、ゼウスの雷の矢を運ぶ軍馬となり、やがて星座となったと伝えられています。

さて、先ほど、ペガスス座51番星という星で太陽系以外で初めて惑星の存在が確認されたといいましたが、実はこの発見された惑星は、公式な名称ではなく愛称としてですが、一時期「ベレロフォン」(Bellerophon) と呼ばれていたんです。


ペガスス座51番星b(惑星)のイメージ画像

ペガスス座51番星b(惑星)のイメージ画像
illustration by me user debivort may 07, Debivort, CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons

これは惑星の観測に携わった天文学者が名付けたもので、神話ではペガサスに振り落とされて悲惨な末路をたどった彼ですが、惑星としていまもペガサスのそばにいるのだ、という、なかなか素敵なアイデアでした。でも、残念ながら2015年、国際天文学連合は別の名前を採用しました。

かわいそうにベレロフォンくん、やっぱり振り落とされてしまったんですねえ。

いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

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