さて、わし座の物語です。ギリシャ神話では、さまざまなバリエーションがありまして、一つに絞ることが難しいんです。ですので今日はその中からかいつまんでご紹介します。
まずは、神々の王ゼウスの使いの鳥であるという説。
ゼウスを描いた絵には、ゼウスのそばに、大きな鷲が描かれていることがあるんです。
『オリンピアのゼウス像』
Standbeeld van Zeus in Olympia, Philips Galle, naar Maarten van Heemskerck, 1638, Public domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)
つねにゼウスのそばに侍っているこの鷲は、ゼウスの武器である稲妻の矢を守る役割を帯びていました。
また同時に、日ごと下界を飛び回って、その鋭い目ですべての出来事を集めて、それをゼウスに伝えるという、つまり情報収集係ですね。
そうした非常に重要な役割を果たしていた鷲なんです。これが星座になったのだというわけです。
また別のお話では、プロメテウスの罰を実行した鷲であった、ともいいます。
プロメテウスは人間に火を伝えた神として有名ですね。
神にしか無い力を盗みだして人間に与えたからだ、とも、堕落した人間からゼウスが取り上げた火を、再び与えたからだ、とも言いますが、いずれにせよゼウスは怒り狂い、プロメテウスと人間に罰を与えます。
プロメテウスは、岩山に鉄の鎖で縛り付けられ、生きながら肝臓を鷲にくいちぎられるという責め苦を負わされした。
プロメテウスは不死身であるため、その肝臓は夜中に再生し、夜が開けると再び大鷲が肝臓をついばみに来るという、永遠の拷問でした。
永い永い時が経ったある日、その岩山を英雄ヘラクレスが通りかかりました。
責め苦を負わされているプロメテウスを見たヘラクレスは、その鷲を矢で射て倒し、プロメテウスを救いました。
その一部始終を見ていたゼウスは、自分の子であるヘラクレスの武勇伝の一つとして、その鷲を天にあげて星座にしたのだといいます。
もうひとつ、この鷲はゼウス自身の変身した姿であるという説もあるんです。
これまでにもいろいろお話してきましたが、ゼウスという神様は大変な浮気者で、あちこちでいろんな女性にちょっかいを出しているわけですけれども、鷲に変身したときのゼウスは、なんと美少年をさらってきているんです。
『ガニュメデスを拉致する鷲のゼウス』
Zeus as an eagle, abducting Ganymede by Giovanni Battista Palumba, Harris Brisbane Dick Fund, 1925, Public Domain via The Metropolitan Museum of Art
その美少年とは、古代都市トロイアの王子ガニュメデス。
この世で最も美しい少年といわれた人物です。
その美しさに惹かれたゼウスは、鷲の姿に変身してガニュメデスをさらってきて、酒盛りをするときのお酌をさせたといいます。
まあ、mお小姓さんというんでしょうか。
ゼウスというひと、そっち方面にも・・・だった、ということのようです。
ちなみにこの永遠の美少年ガニュメデス、かれもまた星座になっていて、それは、秋の星座、みずがめ座です。みずがめ座についてはまたいずれ、お話しますね。
というわけでいろんなお話があるわし座なんですけれど、やっぱりここはもうひとつ。
アルタイルは七夕の彦星でしたね。
夏の大三角は長いあいだ見えていて、七夕のころを過ぎても、夜空の主役である時期が続きます。
できることなら天の川の存在がわかるような、周りの暗い場所でご覧いただくのがベストではありますが、たとえそうでなくとも、頭上を見上げさえすれば、織姫と彦星は存在感をもって輝いています。
近くにあるように見えても、夜空の暗い場所で見れば、あいだに天の川が流れていて、離れ離れになってしまっている二人。
今年の七夕、織姫と彦星はどんなふうに過ごせたでしょうか。
いかがでしょう。
そんなことを思いながら夜空を見上げてみるのも、この忙しい毎日、貴重なひとときになるかもしれませんよ。