秋の星座のラストを飾る「おひつじ座」〜探しかたと黄金の毛皮の羊の神話〜

さて、では、おひつじ座にまつわる物語です。

神話によりますと、この星座は、ゼウスからつかわされた、光り輝く黄金の毛皮を持つ、空飛ぶ羊の姿を表しています。
では、なぜこの羊、空を飛びながら後ろを振り向いているのか、なんですが…。

物語の舞台は、ギリシャ中央部に位置する都市国家オルコメノス。

この国の王さまは美しい妖精をお妃にして、フリクソスという男の子とヘレーという女の子、二人の子供がありました。
ところが、事情があってそのお妃と離婚してしまい、かわって新しいお妃を迎えます。

新しいお妃は、始めのうちは二人の子供をそれなりにきちんと育てていたのですが、やがて自分に子供ができると、血のつながっていない2人を邪魔に思うようになっていきます。

この子たちが邪魔だ、憎らしい。こうした思いは日に日につのっていき、ついに彼女はこの二人を殺してしまおうと決意して策略をめぐらします。

お妃はまず、宮殿の倉庫に蓄えてある穀物の種を火であぶって芽が出ないようにしてしまいます。


王国の収穫物を害するイノ

王国の収穫物を害するイノ
Ino vergiftigt de oogst van het koninkrijk Thebe, René Boyvin, naar Léonard Thiry, 1563, Bruikleen van de gemeente Amsterdam. Public domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

 

何もしらない農夫たちはその種をまいて世話をしましたが、いつまでたっても芽が出ません。
その結果、この年は大変な凶作になり、人々は飢えて苦しみます。

王さまは解決策を求めて、神に伺いをたてることにしました。
ここでお妃は神官たちを買収して、ウソのお告げをさせるんです。

それは「ふたりの子供、フリクソスとヘレーをゼウスへの生贄として捧げれば凶作がやむであろう」というものでした。

むろん、自分の子供を犠牲にするなど、王の望むところではありません。
しかし、国民の苦しみには変えられません。
王は子どもたちを差しだすほかありませんでした。


イオの策略で責められるプリクソスとヘレー

イオの策略で責められるプリクソスとヘレー
Phrixus en Helle, beschuldigd van Ion’s misdaad, verschijnen voor het orakel, René Boyvin, naar Léonard Thiry, 1563, Bruikleen van de gemeente Amsterdam. Public domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

 

やがて生け贄の儀式がはじまります。
祭壇にあげられたフリクソスとヘレーの命が風前のともしびとなったそのとき、空のかなたから黄金に輝く羊が現れました。

羊は祭壇に降り立って兄妹を背中に乗せると、再び空へ舞い上がります。
この羊は、新しいお妃の悪だくみを知ったふたりの実の母親、つまりもとのお妃が、ゼウスに助けを求めて、それに応えたゼウスがつかわした羊だったんです。

危機一髪のところで2人を助けた黄金の羊は、ギリシャから海を越えて、東をめざして、まっしぐらに飛んでいきます。

ところが、エーゲ海をこえてギリシャの対岸、現在トルコ共和国のあるアナトリア半島にさしかかったとき、妹のヘレーはふと下を見てしまいます。
あまりの高さにヘレーはとたんに目がくらんでしまい、しがみついていた手を放して、海へまっさかさまに落ちていきました。

羊はどうすることもできずに、少女が落ちた海を何度も振り返りながら飛びつづけました。


プリクソスとヘレー(ポンペイから発見されたローマ時代のフレスコ画)

プリクソスとヘレー(ポンペイから発見されたローマ時代のフレスコ画)
Phrixos and Helle, Uploaded by –Immanuel Giel 14:24, 9 January 2007 (UTC), Public domain, via Wikimedia Commons

 

この海はその後、ヘレーの海、と言う意味の、ヘレスポントス海峡と呼ばれるようになりました。
現在はダーダネルス海峡と呼ばれていて、ボスポラス海峡とともに、ヨーロッパとアジアとの境界線とされている海です。

かわいそうなことにヘレーは助かりませんでしたが、兄のフリクソスは無事に逃げのび、黒海もこえた対岸にこの当時あった「コルキス」という国にたどり着くことができました。
ここは、数年前「ジョージア」と呼びかたが変わった国が黒海に面しているあたりです。

ギリシャの中央部からエーゲ海と黒海を超えてジョージアの沿岸部まで。
世界地図でご覧いただくと、なるほどここからここまで飛んでいったのか、っていうのがわかりますよ。
よかったらご覧になってみてください。グーグルマップなども簡単でおすすめです。

さて、事情を聞いたコルキスの王さまに保護されたフリクソスは、そののち、この黄金の羊を感謝のしるしとしてゼウスの神殿に捧げ、その毛皮を王さまに献上しました。
このとき、ゼウスは、羊の功績を讃えて天にあげました。
これがおひつじ座になったといわれています。

さて、コルキス王に贈られたこの黄金の羊の毛皮は、神聖な森のなか、軍神アレスを祭る大木の枝にかけられて、昼も夜も決して眠らない竜に守られることになりました。
そして、この毛皮をめぐって、物語は、勇士イアーソンと50人の勇者によるアルゴー遠征隊の冒険物語へ続いていきます。


アルゴー号

アルゴー号
The Argo, Lorenzo Costa, Public domain, via Wikimedia Commons

 

つまり、この空飛ぶ羊のエピソードは、アルゴー遠征隊の壮大な物語のプロローグであるとも言えるんです。
アルゴー遠征隊の冒険のお話、これは別の星座にも関係していますので、またあらためてお届けしますね。

空をまっしぐらに飛びながら、海へ落ちてしまった少女をいまも振り返っている、黄金の毛皮を持つ羊。
いかがでしょう。
そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

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