さて、では、おうし座にまつわる物語。
じつはおうし座に関するギリシャ神話にはいくつかの物語があります。
なかでも有名なお話しがふたつあります。
一つは、ゼウスが、フェニキアの王女エウローペーをさらうために牛に変身したときの姿だというもの。
ちなみに、このときゼウスは、自分の妻になれば永遠にその名を残すことができる、と言ってエウローペーを口説き落としました
のち彼女はクレタ島の王妃となるのですが、ゼウスの言った通り、エウローペーの名前は「ヨーロッパ」となって今日まで残っているんです。
もうひとつが、ゼウスに愛されたイーオーという女性の化身だという物語。
どちらもとっても興味深い物語で、本当は両方お話ししたいくらいなんですけれども、今回はイオにまつわる物語をご紹介します。
イオはとても清らかな美しい乙女で、ゼウスのお妃ヘラに仕える神官を務めていたとされています。
あるとき、散歩しているイーオーを見初めたのが、例によって美しいものには目がないゼウスです。
早速イオに言い寄ったゼウス、どうもイオのほうもまんざらではなかったようなフシもあるんですが、二人はすぐに結ばれて、密会を重ねていきます。
やがてお妃ヘラは、夫の行動がおかしいと気づき、ゼウスに詰め寄ります。
が、ゼウスはヘラに対しては知らないふりを通しながら、ヘラの怒りがイーオーに及ぶのを恐れて、イーオーを牛に変身させてしまいます。
それはそれは美しい白い牝牛であったといいます。
ところがヘラはゼウスの企みを見透かしていたんです。
なにも知らないふりをして、その牛を自分への贈り物にして欲しいと迫ります。
ゼウスはしかたなく、イーオーが変身している牛をヘラに渡してしまいます。
ヘラ(上)、ゼウス(左)、牝牛にされたイーオー(右
“Giove e Io” Giovanni Ambrogio Figino, Public domain, via Wikimedia Commons
するとヘラは、アルゴスという怪物に命じてこの牛の番をさせました。
アルゴスは、眼が百個もある巨人で、ある眼が眠ってもどれか他の眼がかならず開いている、つまり24時間見張られているので、イーオーはどうにも動くことができません。
ゼウスは伝令の神ヘルメスに、アルゴスを退治してイーオーを開放するように命じます。
ヘルメスは、眠くなる魔法の笛を吹いて、アルゴスの眼をひとつずつ眠らせていきました。すべての眼を眠らせたところで、その首をはねて退治してしまいます。
このとき、アルゴスの首と100の眼はヘラが拾いあげて、自分のお気に入りの鳥である孔雀に与えました。
それで、孔雀の羽には眼のような模様がたくさんついているのだといいます。
いったん自由の身となったイーオーですが、もちろんヘラの怒りは収まりません。
ヘラはこんどはイーオーを苦しめるために虻を放ちました。
虻は昼も夜もイオを追い掛け回して、イーオーは眠ることも出来ずに逃げ続けるしかありませんでした。
このとき、逃げまどうイーオーが飛び込んだ海が、現在のイタリアとギリシャの間にある海で、ここはいまも「イオニア海」と呼ばれています。
その後も、イーオーは逃げつづけてさまよい歩きます。
海を渡り、山を越えて、はるかエジプトまで逃げました。
このときイーオーが泳いで渡った海は、「牝牛の渡し」という意味の「ボスポラス海峡」と呼ばれるようになります。
現在はトルコのイスタンブールがあるところですね。
さて、エジプトまで逃げたイーオーのもとへ、ようやくヘルメスが追いつきます。
ヘルメスは虻を退治して、イーオーを人間に戻しました。
また、一説には、ことここにいたって、ゼウスがヘラに謝罪したので、ヘラはイーオーを許して人間に戻してやったのだともいいます。
イーオーはエジプトの地でゼウスの子どもを産み、やがてエジプトの王さまと結婚して、エジプト王妃として幸せな生涯を送った、といいます。
また、エジプトの女神イシスになったのだ、とも伝えられています。
この、イーオーが変身させられた美しい白い牛の姿が夜空に上げられて、星座になった、ということなんですが・・・
ただ、それだとおうしではなくてめうし、なはずですよね。
それもあってか、星占いでは星座を男性と女性にわける区分があるんですが、このおうし座は女性に区分されているんだそうです。
もうひとつ。
さきほど、オリオンに挑みかかるような姿、といいました。
ゼウスが変身した牛、のほうの説をとるなら、勇猛なイメージもわかりますよね。
ただ、これは、すぐ隣に狩人であるオリオンがいるせいもあって、確かに両者が戦っているようにも見えるんですが、ちょっと見方を変えると、前足を折って祈っている姿のようにも見えるんです。
苦しみの果てにエジプトまでたどり着いたイーオーが、救いを求めて祈っている姿なのかもしれません。
いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか?
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