うお座を探してみませんか

さて、うお座にまつわる物語です。

先ほどお話したように、この星座はリボンで結ばれた2匹の魚のすがたとして描かれているんですが、この二匹の魚、ギリシャ神話では、女神アフロディーテとその息子エロースに見立てています。
つまりローマ神話で言うところのビーナスとキューピッドなのです。

美と愛の女神アフロディーテ、ローマ神話ではビーナス。ひょっとしたらギリシャ神話およびローマ神話でいちばん有名な神様かもしれませんね。
アフロディーテは「ゼウスの子どもである」とも言われていますが、一般的には「海の泡から生まれた」とされている女神です。
このシーンをモチーフにした、非常に有名な絵がありますね、ルネッサンスの画家ボッティチェッリの描いた「ヴィーナスの誕生」という絵。貝殻にのって海岸にたどり着くビーナス、すなわちアフロディーテの絵です。


「ヴィーナスの誕生」

「ヴィーナスの誕生」
“The Birth of Venus” Sandro Botticelli, Public domain, via Wikimedia Commons

このアフロディーテにはエロースという息子がいまして、ローマ神話ではキューピッドです。ちなみにキューピー(Kewpie)というのは、キューピッドをモチーフにしたキャラクターなんですね。
エロースもしくはキューピッド、黄金の矢と鉛の矢を持っている、いたずら好きな愛の神。これまた有名な神さまです。

この親子がなにゆえ魚になってしまったかといいますと、やぎ座のお話をした時にご紹介したエピソードに関係しているんです。

ナイル川のほとりで神々の宴会が盛大に行われていた時のことです。
やぎ座になった牧神パーンや音楽の神アポロンが、角笛や竪琴を奏で、神々はそれに合わせて歌ったり踊ったり大いに盛り上がっていました。
そのとき。いきなり姿をあらわしたのが、怪物テュフォーン。
かつてゼウスに逆らった古き神々の生き残りで、神々すらも恐れたほどのおそろしい力を持つ怪物です。

宴会の最中に突然テュフォーンに襲われた神々は、思い思いの姿に変身して、散り散りになって逃げていきます。
このとき、あまりにも慌てたため上半身が山羊、下半身が魚という中途半端な変身になってしまったのがパーンで、その姿がやぎ座になったんでしたね。

で、このとき、アフロディーテとエロースは魚に変身してナイル川へ飛び込んだのです。

ちなみに、他の神様はどうしたかというと、ゼウスは鳥に、そのお妃のヘラは雌牛に、太陽の神アポロンはカラスに、そして月と狩りの女神アルテミスは猫になって逃げたとされています。

さて魚に変身してナイル川に飛び込んだアフロディーテとエロース。広大で流れも速いナイル川のなか、何度もはぐれそうになってしまうんです。
そこで、離れ離れになっては大変と、お互いの尾をリボンでしっかり結び合いました。そのおかげで、2人ははぐれることなく逃げることができたと伝えられています。

ところで… 神々の宴会場で暴れまくったテュフォーンはその後どうなったかといいますと。

ゼウスはいったんは鳥の姿になって逃げたのですが、さすが神々の王、雷の矢や金剛の鎌でテュフォーンに戦いをいどみます。
いったんはゼウスに追いつめられたテュフォーンでしたが、そこで反撃に転じまして、逆にゼウスを洞窟の中に閉じ込めてしまいます。

その後、伝令の神ヘルメスとパーンによって助けだされて、力を取り戻したゼウス。再びテュフォーンと相まみえ、こんどは深手を負わせます。
激闘の末、力を失いはじめたテュフォーンは、ついにシチリア島に追いつめられます。


テュフォーンと戦うゼウス

テュフォーンと戦うゼウス
Tornado–Zeus Battling Typhon, from Erasmus Darwin’s “The Botanic Garden”, The Elisha Whittelsey Collection, The Elisha Whittelsey Fund, 1966, Public Domain via The Metropolitan Museum of Art

しかしながらテュフォーンは不死の力をもつ魔神であったため、さすがのゼウスでも、その息の根を止めることまではできません。
そこでゼウスはテュフォーンを大きな火山の下敷きにして、二度と暴れだすことができないように封印することにしました。

この山が現在シチリア島にそびえるエトナ火山だといわれています。
そして、いまも、テュフォーンが地下でもがくたびにに噴火が起こるのだといいます。

さて、お互いの尾をリボンでしっかりと結び合って逃げのびた、女神アフロディーテとその息子エロース。
ゼウスはのちに、この姿を記念して、うお座として星座に加えたということです。

互いの尾を結んで、大切な人と別れまいと懸命になった二人。
いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

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