うみへび座の探し方と神話〜蛇の心臓アルファルド、ヒュドラー対ヘラクレス

ではうみへび座にまつわる物語です。この大蛇の正体は、ギリシャ神話に登場する怪物ヒュドラー。
蛇の怪物です。

ただし、星座の名前は「うみへび」といいますが、ヒュドラーは、海にすむ怪物ではないんです。
沼地にすむ蛇の怪物なんです。ですから正確には「みずへび」と言うべきなのかもしませんけれども…
でもじつ
は南半球で見える星座に「みずへび座」というのがあったりしましてちょっとややこしいんですけどね。

ま、ともあれ、この蛇の怪物が登場するのは、ギリシャ第一の英雄、ヘラクレスの物語です。

先週お話したしし座の、人食いライオンが登場するのもヘラクレスの物語でしたよね。
ヘラクレスは、ゼウスと人間の女性との間に産まれた子供で、罪滅ぼしのために12の危険な冒険をします。
しし座の人喰いライオンとの戦いが、その、ひとつめの冒険でした。

そして、ふたつめの冒険が、この、怪物ヒュドラーを倒すことだったんです。

ヒュドラー

ヒュドラー
“‘Hydra de Lerna’.” by Biblioteca Rector Machado y Nuñez

ヒュドラーは、ゼウスのお妃ヘラがヘラクレスを倒すために育てたとされる怪物です。
巨大な胴体からのびる9つの首をもっていて、そのうちの一つ、真ん中の首は不死身の首です。
そして、それぞれの首から激しい毒気を吐いたと言われます。
日本の神話に登場する「やまたのおろち」にちょっと似てますね。

ヒュドラーはアミモーネの泉、というところのそばの沼地に住んでいました。
アミモーネの泉は、本来はとても清らかな泉で、人々の大切な飲み水となっていました。
ところがこの怪物があらわれて以来、その毒気によって、毒の泉となってしまい、人々は困り果てていたんです。

このヒュドラー退治を命じられたヘラクレスは、さっそくアミモーネの泉に向かいます。

じつは今回の冒険、活躍するのはヘラクレスだけではないんです。
ヘラクレスは、徒歩ではなく戦車にのって移動してるんですけれども、あ、戦車といってももちろん、今のキャタピラーのついたタンクじゃないですよ。
戦闘用の馬車なんです。
そのヘラクレスが乗る戦車の御者、つまり馬をあやつる役をつとめていたのが、ヘラクレスの甥にあたるイオラーオスという人物。

イオラーオスは御者としていつもヘラクレスに付き添っているんですが、時として重要な役割を果たします。
今回のヒュドラー退治もそうなんです。

さて、イオラーオスのあやつる戦車でアミモーネの泉にやってきたヘラクレス。
まず、火のついた矢をヒュドラーの巣のなかへ打ち込みます。いぶしだそうという作戦ですね。

巣から現れたヒュドラー、ヘラクレスにおそいかかると、足にからみついてヘラクレスを倒して、毒気を吹き掛けてきます。
ヘラクレスは息を止めて毒気を防ぐと、棍棒でヒュドラーを打ち据えます。

ヘラクレスとヒュドラ

ヘラクレスとヒュドラ
John Singer Sargent: “Hercules and the Hydra”, Public domain, via Wikimedia Commons

ヘラクレスの怪力で殴られたヒュドラー、一瞬ひるんでヘラクレスの足を放してしまいました。
この時、ヒュドラーに援軍が現れます。それは同じくこの沼地に住んでいた巨大なカニの怪物。

カニの怪物はヘラクレスの足を巨大なハサミで攻撃しますが、あっさりヘラクレスにふみつぶされてしまいます。
このカニの怪物がかに座になったんでしたね。

ヘラクレスは今度は腰から剣を抜いて、ヒュドラーの九つの首を次から次へと斬り落としていきます。
ところが、斬られたところからまた新しい首が生えてくるんです。
これでは、いくら切ってもきりがありません。

さすがのヘラクレスもこれにはほとほと困り果ててしまいます。
ここで活躍するのがヘラクレスの甥っ子、イオラーオス君なんです。

ヒュドラを倒すヘラクレス(『ヘラクレスの生涯』より)

ヒュドラを倒すヘラクレス(『ヘラクレスの生涯』より)
“Hercules Killing the Lernean Hydra, from Scenes from the Life of Hercules” 1523–1533 by Gabriel Salmon via Art Institute of Chicago

イオラーオスは、近くのやぶに火を放ちまて、燃えさかる木でたいまつをつくります。
そして、ヘラクレスがヒュドラーの首を切り落とすごとに、その切り口を火で焼いていったんです。
すると、焼かれた切り口からはもう首が生えて来ることはありませんでした。

そして最後に残ったのが、真ん中の不死身の首。
この首だけはいくら切りつけても傷を付けることさえできません。
そこでヘラクレスは、その首を巨大な岩の下敷きにして、土の中に埋めてしまいました。

こうして、ヘラクレスはようやくヒュドラーを退治することができたんです。

ところで、ヒュドラーの血。この血は、触れた者がたちどころに死んでしまうほどの猛毒でした。
ヘラクレスはヒュドラーを退治したあと、持っていた矢をその血に浸しました。

ヒュドラーの毒の矢をもつヘラクレスは、これ以降、天下無敵になったということです。

ちなみに、ヘラクレスは罪滅ぼしのために、本来は、10の勤めを果たせ、というお告げをうけていたんです。
ですが実際には12の冒険をしています。
なぜ数が合わないかというと、ふたつノーカウントにされてしまったからなんですが、そのひとつがこのヒュドラー退治です。
イオラーオスの助けを借りたから、というのでノーカウントにされてしまったんです。

さて、この、ヘラクレスとヒュドラーの戦いを空から見ていたのが、女神ヘラ。
ゼウスのお妃さまです。ヘラは夫の浮気で生まれたヘラクレスをひどく憎んでいました。
よくぞヘラクレスを苦しめた、というんで、ヒュドラーを空にすくいあげ、星座に加えたといわれています。

春から初夏にかけての夜空には、かに座しし座、そして、うみへび座と、ヘラクレスに退治された怪物たちがそろって浮かんでいます。

春から初夏にかけての星空、ヘラクレスにちなんだ怪物たちのそろい踏み。

そんなことを思い浮かべながら、いかがでしょう、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

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