くじら座の星から〜怪物クジラと「不思議な星」ミラ〜

いつもはこのコーナー、後半は神話をご紹介することが多いんですけれども、このお化けクジラが登場する神話は、ここまで、ペガスス座、アンドロメダ座とお話ししてきている、晩秋から初冬にかけての星座たちが勢揃いしてエピソードを織りなす、古代エチオピア王家の物語。
ですが、このくじら座でようやく3つめなんですね。
登場していない星座がまだまだありますので、神話をご紹介するのはもう少し先に、と思っています。

そんなわけで、今日の後半は、くじら座にあるもう一つの有名な星についてお話します。
くじらの心臓にあたる星、「ミラ」と呼ばれる星です。

英語で「不思議な」というのを「ミラクル(miracle)」と言いますが、これと同じく、ミラというのは「不思議な星」という意味で名付けられた星です。
何が不思議かというと、明るさが変わるからです。
明るさが変わる星のことを「変光星」とって、じつはこの宇宙にはたくさんあるんですが、このミラという星は、なかでも、肉眼で見ていても明るさの変化がわかる星として有名なんです。

ミラは、およそ11ヶ月の周期で、明るくなったり暗くなったりを繰り返します。

最も明るいときには2等星ほどの明るさになります。
先ほども目印にした秋の四辺形も2等星だし、冬場は見えにくいんですが、北斗七星はほとんどが2等星でできています。
ということは、市街地でも見えるくらいの明るさになるということですね。

これに対して最も暗いときは、9等星か10等星くらいになってしまって、これはもう肉眼では全く見えません。
望遠鏡でようやく見えるくらいの星になってしまうんです。

そして、明るくなる時に、その変化の度合いが大きいんです。
何日もかけてではありますが、あきらかにそれとわかるくらいの変化で日に日にどんどん明るくなってきます。
逆に暗くなるときはわりとゆっくりしていて、一度明るくなると、しばらく明るさを保ったあと、だんだんゆっくり暗くなっていくんです。

変光星の明るさが変わる仕組みはいくつかあるんですが、ミラの場合は、まさに怪物の心臓にあたる星にふさわしく、脈動しているんです。
つまり、膨張と収縮を繰り返して、星の大きさが変わることことによって明るさが変わっているんです。
これもかなり不思議な事ではあるんですが、そんなことを知らない昔の人には、本当に不思議な星に見えたことでしょうね。
それで、不思議な星、という意味で「ミラ」と呼ばれたんです。

さて。この星にはもう一つ、ミラクル、つまり奇跡に関係するお話があります。
それは、この星が「クリスマスの星」なのではないかという説があるんです。

今から2000年くらい昔。ベツレヘムの馬小屋でイエス・キリストが生まれた時。
夜空に一つの明るい星が輝いた、という言い伝えがありますよね。
この星に導かれて、羊飼いたちや、東方から3人の博士がやってきたという有名なお話です。
クリスマスツリーのてっぺんに星がついているのはこのお話にちなんでいて、「ベツレヘムの星」とも呼ばれます。


『東方の三博士の来訪』

『東方の三博士の来訪』
The Adoration of the Magi or possibly The Visit of the Wise-men, Heinrich Hofmann, Public domain, via Wikimedia Commons

 

この、東方の三博士や羊飼い達をイエスのところへ導いた星がなんだったのかについては、いろいろな説があって特定されていません。
超新星(超新しい星と書きますがこれは星が一生を終えるときにおこす大爆発のことです)だったのではないか。
あるいは「ほうき星」だったのではないか。
はたまた、明るい惑星がいくつか、たまたま寄り集まる位置になって明るく見えたのではないか。
さらには、そもそもまったくのフィクションなのではないか。
などなど、本当にたくさんの説があります。
そうした説の一つに「明るくなったミラだったのではないか」というものがあるんです。

さきほど、ミラが明るくなった時は2等星くらいになると言いましたが、じつはこの明るさは毎回異なっていて、時にはかなりの明るさになることもあるんです。
逆に、そんなには明るくならないこともあるんですけれども。
また、さきほどお話ししたように、明るくなるときの変化が急なんです。
じっさい、ミラが発見されたのは、今まで星が無かったはずの所にとつぜん現れたように見えたからでした。

ですから、星が無かったはずの所で明るくなってきたミラを見て、東方の三博士や羊飼い達はその方向に導かれたのかも知れない、という説なんです。
もちろん、あくまで、一説、ですよ。

さて、このベツレヘムの星なのかもしれないミラ、およそ11ヶ月の周期ということは、明るくなる時期が毎年ずれていくということですよね。
今年2016年のピークは4月ごろで、この時期は日中の空にいるため見ることはできませんでした。そして今現在はというと、もっとも暗くなっている状態なんです。
次にピークになるのは来年の3月ごろと考えられます。
なので、ここ数年は、見頃である晩秋〜初冬には暗い状態で存在がわからない状態がつづきます。
でも、もちろん、ばっちりクリスマスの時期に当たることもあるんですよ。
あと何年か先ではありますが、楽しみですよね。

お化けくじらの心臓で、脈打ちながら明るさを変える、不思議な星。
ひょっとしたらクリスマスの星なのかもしれない、奇跡の星、ミラ。

いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

 

タイトルとURLをコピーしました