ニュースなどでご存知の通り、中国の無人探査機「嫦娥3号」が、先週末の14日、月面の「虹の入江」と呼ばれる部分に着陸しました。
1976年のソ連の「ルナ24号」以来37年ぶりという月面軟着陸を果たし、地下をレーダーで調べたり、地表の岩石や土壌など、さまざまな調査が行われます。
また、このニュースと前後して、2007年から2009年まで月を周回観測したわが国の探査機「かぐや」のデータをもとに、新しい月面の立体地図が完成したという話題もありました。
今回はそうした話題にちなんで、月の謎について、そして中国に伝わる「嫦娥伝説」についてのお話です。まずは「月の謎」のお話から…
月は、地球からいちばん近い天体としてたいへん身近な存在です。これまでに最も観測が行われてきた天体も月、人類が宇宙に進出したときまず目標となったのも月、そして、人がたどりついた天体も月だけです。
でも、月にはまだまだわからないことがたくさんあって、依然として調査がつづけられているんですね。
そもそも、月には、その見ためからして大きな謎があります。それは、月のサイズです。
月の直径は地球の1/4強、およそ27%あるんですが、これはじつはとても珍しいことなんです。
太陽系にはたくさんの衛星がありますが、たとえば太陽系最大の衛星、木星のガニメデ。水星よりも大きい巨大な衛星ですが、親惑星である木星のわずか3.7%の直径しかありません。
比較的比率の大きい海王星の惑星トリトンでさえ、5.5%。
月というのは、ちょっと他に例がないほどに大きい衛星なんです。
この大きさは、月がどんなふうにできたのか、と密接に関連していると考えられているんですが、この「月の起源」というのも、依然として深い謎なんです。
古くから提唱されてきてた月の起源は、大きく3つの説に分けることができます。
まず、分裂説。地球と月はもともと一ひとつの天体だったものが、あるとき地球の一部が膨らんでちぎれて、月が誕生したという説。別名、親子説とも言われます。
それから、捕獲説。小惑星や、近ごろ話題を呼んだ彗星が地球に近づくことがあるように、月も、たまたま地球の近くを通りかかったとき、地球の引力で捕らえて、まわりを回るようになったという説です。
もうひとつが、兄弟説。月と地球は同じ材料、つまりガスとチリの塊から、同じ時期に作られたという考え方です。
どの説も、月と地球の関係をうまく説明できる部分もあるんですが、どれも決定打に欠けていて、これが正しい!とされる説はありません。
この3つの説にくわえて、近年提唱されて有力視されているのが、巨大衝突説。ジャイアントインパクト説ともいいます。
これは、誕生してまもない地球に、火星くらいの大きさの巨大な天体が猛烈な速度で衝突して、その衝撃で、地球と、衝突した天体それぞれから物質が飛び散って、それが集まって月ができたとする説です。
この巨大衝突説は、これまでのところ、月に関するさまざまな事柄をうまく説明できるため、もっとも有力な説とされています。ただ、これもやっぱりまだまだ決定的ではないんですね。
この他にも、月にはいくつもの謎があります。たとえば月の内部構造。
月の内部も、地球と同じような構造をしているのかどうか。地球の内側には「マントル」という、溶けた岩石が対流している層があり、さらにその内部には「コア」と呼ばれる金属でできた中心核があるんですが、月にも同じようなものがあるかどうか、まだわかっていません。また、あるとしたらどのくらいの大きさなのか、といった推定もさまざまに分かれていて、定説がないのが現状です。
また、磁場の謎というものもあります。地球上では方位磁石のN極が北を、S極が南を指します。これは、地球に磁場がある=地球全体が大きな磁石になっているためなのですが、では月は、というと、現在の月には地球のように、全体としての磁場は存在していませんが、かつて磁場があったことはわかっています。そのかつて存在した磁場は、現在の地球のものより強いものだったと考えられていますが、その磁場を発生させたメカニズムや、消滅した理由など、まだ解明されていません。
また、「残留磁場」といって、かつてあった磁場の名残として弱い磁場が部分的にのこっているのですが、不思議なことに、この残留磁場のなかには、局所的に、磁場が異常に強い地域があるのです。この理由についても、はっきりしたことはまだわかっていません。
そして、表と裏の違いの謎。月は表側と裏側に分かれていて、つねに同じ側を地球に向けています。あの、ウサギがお餅をついている模様がいつも見えているのは、いつも同じ面がこっちを向いているからなんですね。
そして、この表と裏は、見た目がかなり違うんです。表側には「海」と呼ばれる、黒っぽくて模様に見えるところがたくさんあるのにたいして、裏側には海はあまりありません。
さらにそれだけではなく、地下の構造からしてはっきりと違うらしいということが、最近の探査でわかりつつあります。この違いがどのようにして生まれたのか、また、表側の特徴である月の「海」、これがどのようにしてできたのか、今後の解明が待たれているところです。
こんなふうに、いまだ多くの謎にみちた、月。その解明のため中国が進めているプロジェクトが「嫦娥計画」今回のはその三号機なわけです。
この嫦娥とは、中国の古くからの伝説で、月に住むとされる女性の名前です。では、その嫦娥伝説については、次のページでお話しします。