「てんびん座」探し方と正義の女神アストライア

さて、てんびん座にまつわる物語、ご紹介するのは正義と純潔の女神、アストライアーの物語。

コルネリス・ガル『アストライアーの王位継承』(部分)

コルネリス・ガル『アストライアーの王位継承』(部分)
Justitia (Rechtvaardigheid), Paul Decker (I), naar Doud, naar Augustinus Terwesten (I), 1687 – 1713, Public Domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

彼女はゼウスを父に、同じく正義を司る、テミスという女神を母にもつ女性です。
ちなみに、アストライアーの母であるテミスは、公正さを表わすシンボルとして、古くから、裁判所や、法律関係の事務所や学校などに飾る彫刻の題材として使われています。

この正義の女神像は片手に剣を持って、もう片方の手に天秤を持つ姿で描かれていますが、その娘であるアストライアーもまた、この、人の善悪をはかる天秤を常にたずさえていました。

てんびん座は、この、アストライアーが持っていた天秤が空にのぼったとされているんですが、では、なぜ、この天秤、夜空に輝くようになったのか…

ギリシャ神話では、人類は5つの時代を過ごしてきたたといわれています。それは、①黄金の時代,②白銀の時代,③青銅の時代,④英雄の時代,そして⑤鉄の時代です。

ピエトロ・ダ・コルトーナ『黄金時代』

ピエトロ・ダ・コルトーナ『黄金時代』
The Golden Age (Fresco, Sala della Stufa, Palazzo Pitti, Florence) by Pietro da Cortona, Public domain, via Wikimedia Commons

はじめの黄金の時代、地上は常春、一年中が春でした。大地は耕さなくても豊かに実り、川にはミルクや酒があふれていました。
争いごとはまったくなく、世界は平和そのものでした。ちなみにいわゆる「黄金時代」という言葉、英語でもGolden Ageといいますが、ここから来ているんです。

そんな素晴らしい時代でしたから、神々は地上におりて、人間達と一緒に楽しく暮らしていました。
なかでも女神アストライアーは、人間の親しい友人として、正義を説き聞かせることにつとめていました。

やがて時代が移り、白銀の時代になると、季節というものが生まれます。
暑さ寒さのために、人々は家を建て、また、食べ物を得て貯蓄するために働かなくてはならなくなりました。

ヘンドリック・ゴルツィウス『銀器時代』1589年

ヘンドリック・ゴルツィウス『銀器時代』1589年
Zilveren Eeuw, Hendrick Goltzius (atelier van), naar Hendrick Goltzius, 1589 Public Domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

それによって、人々の間に貧富の差が生じ、持てるものが持たぬものを虐げるようになります。また、土地や財産をめぐって争いが生まれました。
人々は、自分さえよければ、他人はどうでもいいと考えるようになっていきます。そして、その欲望を満たすための、嘘や悪知恵、暴力が氾濫しました。

神々は、人間の変わりように愛想をつかして、天上界へ引き上げてしまいます。
しかし、アストライアーだけは。なおも人間界にとどまって、かわらず熱心に正義を説きました。けれどこれまでのように素直に聞き入れる者もなく、人々の心は女神から離れていくばかりでした。

ヘンドリック・ゴルツィウス『青銅時代』

ヘンドリック・ゴルツィウス『青銅時代』
Bronzen Eeuw, Hendrick Goltzius (atelier van), naar Hendrick Goltzius, 1589, Public Domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

時代はさらに進んで、青銅の時代に入ります。
この時代の人間はじつに狂暴で、争いごとばかりして暮らしていました。地上は親兄弟でさえも殺し合う、殺伐とした場所になってしまったのです。

そして、続く英雄の時代。相変わらず悪がはびこってはいたものの,神話の英雄たちが登場して活躍した時代です。
アストライアーはいまだ望みを捨てず、この時代も、ただ1人地上にとどまり、人々に正義を説いてまわっていました。

ビアージョ・ダントニオ「アルゴノーツの物語の場面」(部分)

ビアージョ・ダントニオ「アルゴノーツの物語の場面」(部分)
“Scenes from the Story of the Argonauts” by Biagio d’Antonio, Public Domain, via The Metropolitan Museum of Art

しかし、つづいてやってくる鉄の時代。人間は欲望にかられて集団で武器をとって、ついに「戦争」をはじめてしまいます。
この「鉄の時代」は現代まで続いているんですね。

最後まで地上に留まって人々に正義を訴え続けた女神アストライアーでしたが、鉄の時代に至ってついに人間たちに失望してしまい、悲しみをたたえたまま自ら天に昇って、星座になってしまったといいます。

ヘンドリック・ゴルツィウス『鉄の時代』

ヘンドリック・ゴルツィウス『鉄の時代』
※去っていくアストライアーが右上に描かれている。
IJzeren Eeuw, Hendrick Goltzius (atelier van), naar Hendrick Goltzius, 1589, Public Domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

以前、おとめ座のお話をしましたが、おとめ座は、豊穣の女神デーメテールの娘ペルセポネーの姿だとされる一方、このアストライアーであるという説もあるんです。

そして、アストライアーがつねに手にしていた天秤もまた、このとき、ともに天にのぼって星座となり、おとめ座のすぐ隣で輝くようになったといわれています。

最後まで人間を信じて地上に留まり、人々に正義を訴え続けながらも、ついに失望してしまった正義の女神、そして、彼女の持つ人の善悪を計る天秤。
いまも空から、わたしたちを見据えているのかもしれません。

『d'Grote Seeff』(部分)

『d’Grote Seeff』(部分)
d’Grote Seeff, 1618, anoniem, naar Adriaen Pietersz. van de Venne, 1618, Public Domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

タイトルとURLをコピーしました