いっかくじゅう座の探し方と伝説〜幻の獣・ユニコーン

さて、いっかくじゅう座はギリシャ神話をもとにした星座ではありません。
ですが、ユニコーンという架空の動物の起源はギリシャにあるのではないかといわれています。

紀元前400年頃の古代ギリシャの歴史家がインドにいるという一角獣のことを本に書いていまして、これが初めて文献に表れたユニコーンであるといわれているんです。

それによりますと、ユニコーンは「胴体が白く、頭は濃い赤、目は濃い青で、額に長い角を生やしたロバのような動物」とされています。

かのアリストテレスはこの文章を引用しながら、この動物について「インドロバ」と呼び、実在する生物であるとして解説した文章が残っているそうです。でも、なんだかかずいぶんイメージが違いますね。

また、古代ローマの博物学者はこんなふうに紹介しています。「ユニコーンは非常に狂暴な動物で、胴体はウマに似ており、頭はシカ、足はゾウ、尾はイノシシで、額の真ん中に黒い角が一本突き出ている」と。

さらに時代が下って中世のヨーロッパでは、当時のさまざまな民間伝承を集めた書物の中で「一角獣は小さな動物で、仔山羊くらいの大きさだが途方もなく力が強いため、狩人も近づくことができない」と紹介されています。

こんなふうに、ユニコーンは、伝承によってさまざまな姿が伝えられているんですね。

でもやっぱり有名なのは、白馬のような姿をしたユニコーンでしょう。美しい純白の毛並みと凛々しい表情、そして、額の中央に、槍のような長い一本の角。みなさんもユニコーンといえばこういう姿を思い浮かべるのではないでしょうか。

性質は純潔にして、孤高。人間を嫌って普段は森の奥深くに潜んでいるけれども、乙女にのみ心を許す、なんていうふうに言われます。ですが、この、ユニコーン=白馬というイメージは、どうやら比較的のちの時代になって固まったもののようです。

いずれにしても、ヨーロッパではユニコーンは実在の動物だと信じられてきました。それは、こんなふうに古代から伝わる伝説があったということもあるんですが、じつはもう一つ、きわめて大きな理由があったんです。

それは、旧約聖書の中にユニコーンが登場するということです。

後にはその性格の純潔さから、聖母マリアの懐胎(いわゆる処女懐胎ですね)と結びつけられ、やがてはキリスト自身をしめすシンボルとさえされました。当時の人々にとってみれば、聖書に書かれているわけですから、ユニコーンは実在する、あるいは、少なくともかつて実在したのだと思えたんですね。

ですが、じつは、いま旧約聖書をひもといても、ユニコーンは出てきません。これはなぜかと言いますと…

旧約聖書はもともとヘブライ語という言語で書かれているのですが、その中に、「Re’em(レーム)」という動物が出てくるんです。

「Re’em」というのは、もともとは「二本の角を持つ動物」という意味で、野生の牛の一種をさしていたらしいんですが、紀元前2世紀ごろ、旧約聖書がギリシャ語に翻訳された時に、この単語が「Monokeros(モノケロス)」と訳されました。

“mono”が「一つの」、“keros”が「角」という意味で、つまり一本の角、「一角獣」という意味ですね。つまりこれ、誤訳なんです。

なぜそうなったのかについてはさだかではないんですが、ペルシャの浮彫でウシの横顔が角が一本に描かれていた…これはようするに重なって見えているわけですね。で、それを見たギリシャ人が一本角の動物と思いこんだのではないかという説もあるようです。

やがて旧約聖書はラテン語に翻訳されますが、このときベースになったのがこのギリシャ語版でした。この時、ギリシャ語の「Monokeros(モノケロス)」が、ラテン語で同じ意味の「Unicorn」となったというんです。”uni”が「一つの」、”corn”が「角」、同じく一本の角という意味です。

そして16世紀、宗教改革で有名なマルティン・ルターによって聖書がドイツ語に翻訳されます。

このときルターは、ヘブライ語版、つまりおおもとの旧約聖書を使って訳しました、にも関わらず、やはり「Re’em」を「Unicorn(ユニコーン)」と訳したんです。

17世紀、イングランド王ジェームズ1世の命令によって公式な英語版の聖書がつくられますが、ここでも、「Re’em」は「Unicorn」と翻訳され続けました。このあたりも、なぜなのか、はっきりわからないんですね…

ともあれ、こんないきさつで旧約聖書のなかに登場したユニコーンですが、18世紀ごろにになると、しだいにその実在を疑われるようになり、19世紀に入ると、これは明らかに誤訳だ、という声がどんどん強くなっていきます。

結局、1901年、つまり20世紀最初の年に発行された英語版の聖書には、「Re’em」の翻訳として「wild ox」すなわち「野牛」が当てられました。

今日では、英語では「wild ox」あるいは「wild bull」と訳されるようになっていますし、日本聖書協会発行の日本語の聖書でも、「野牛(のうし)」と翻訳されているようです。

誤訳によってあわわれて、二千年近くにわたって聖書の中に存在し続けたユニコーンは、20世紀の声を聞くとともに、その姿を消しました。まさに「幻の獣」なんですね。
いかがでしょう。そんなお話を思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。
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