さて十五夜にまつわる物語。
今日は、中国に伝わる伝説をご紹介します。
中国では、月には嫦娥という女性が住んでいると言われています。
彼女が月に住むにいたったいきさつにはいくつかバリエーションがあるんですが、今日は、十五夜にまつわるこんなお話をご紹介します。
はるかな昔、10個の太陽が一度に空に現れたことがあったんだそうです。
10個もの灼熱の太陽に焼かれて、大地は荒れ果て、海は干上がり、人々は暮らしを立てることすらできなくなってしまいました。
このころ中国に、后羿(こうげい)という名の、弓の名手として名高い勇敢な若者がいました。
彼は人々の苦しみを見て立ち上がり、10個の太陽のうち九つを一気に弓矢で射落としました。
ひとつのこった太陽は后羿に許しを乞い、その後は、決まった時間に昇り、沈むことを約束したといいます。
こうして后羿の名は英雄として天下にとどろきました。そののち彼は、美しく、聡明な女性をめとります。
その女性の名は嫦娥。
嫦娥は美しいだけでなく心やさしい女性で、周囲からの人望も厚く、二人は仲むつまじく幸せに暮らしていました。
ある日のこと。后羿は狩の途中で一人の年老いた道士に出会いました。
道士は后羿の人となりに感服して、不老不死の薬をひと包み与えます。
この薬を飲めば不老不死を得ることができ、天に上って仙人になれるというのです。
ところがその薬は一人分。后羿は妻や自分の周りの人々とはなれて自分だけ天にいこうとは思いませんでした。
屋敷に帰った后羿は、嫦娥にいきさつを話してその薬を渡し、しっかりしまっておくようにと命じました。
このころ、后羿のもとには、彼をしたって多くの者たちが弟子入りしていました。そのなかに、蓬蒙(ほうもう)という名の悪賢いものがおりました。
蓬蒙はその薬の噂をきいて、自分が仙人になろうとたくらんだのです。
その年の8月15日、后羿は弟子たちを連れて狩に出かけました。
日が暮れる直前、蓬蒙はひとりひそかに后羿の家に戻ります。
そして嫦娥の部屋に入り込み、薬を渡すように迫ったのです。
こんな悪者に薬をわたすわけにはいかない、そう考えた嫦娥は、蓬蒙が彼女に飛びかかる寸前、やむにやまれず、薬をひといきに飲みこんでしまいます。
すると、彼女の体はふわりと浮き上がりました。
何が起こったのかわからないまま、嫦娥のからだはあっというまに窓を抜け出して、一直線に空高く舞い上がっていきます。
このままでは夫の住む地上から離れていくばかり。
彼女はなんとか進路を変えて、日暮れとともに顔を覗かせていた「月」に降り立ちました。
后羿が屋敷に戻ったとき、すでに妻の姿は見えませんでした。
事の次第を知った后羿が、急いで外に出て空を見上げると、月はいつもより丸く、いつもより輝いて見えました。
ふと、月の中に妻のすがたが見えたように彼には思えました。
后羿は嫦娥を連れ戻そうと月を追いかけます。
でも、走っても走っても月は逃げていくばかり、どうしても月にたどり着くことはできません。
泣く泣く屋敷にもどった后羿は、庭に嫦娥の好きだった果物などをおいて、彼女を思いました。
近くの人たちもそれにならい、果物をのせたテーブルを供えて、心やさしい嫦娥をしのんだのでした。
あくる年の8月15日。この日も月は特別に丸く、明るく輝いて見えました。
そして后羿はその後も毎年、この日の夜は、果物をたくさん置いたテーブルを月明かりの元において妻を思ったのです。
これが世間にも伝わって、お月見の風習になっていったのだ、と言われています。
いっぽう、不老不死となって月に住むことになった嫦娥。
彼女は月の宮殿に入ることになったのですが、日々、夫のことを思いながら暮らす嫦娥。どんなに豪華なインテリアも、せいたくなご馳走も、美しい音楽や舞も、彼女の孤独を晴らすことはできませんでした。
毎年、十五夜の夜、嫦娥は宮殿の外に出て、はるか彼方の地球を眺めるのでした。
彼女の美しい顔が、月をさらに輝かせ、さらに丸く美しく見せるのだといいます。
さて、今年も、中秋の名月がやってきます。
天気予報は今のところ曇時々晴。どうか晴れ間がありますように。
そして、もしかしたら今年の十五夜も、嫦娥は月からこちらを眺めているかもしれませんよ。
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