夜空に放たれた一本の小さな矢「や座」〜エロースとプシュケーの物語

今日は、夜空に放たれた一本の小さな矢、や座のお話です。

や座、「やだ」じゃないですよ、「やざ」。
弓矢の矢、小さな矢の形をした星座なんです。

「や座」は、全天で3番目に小さいという、とても小さな星座です。
小さい上に、明るい星がない星座なので、特に市街地近くなどでは姿を確認するのは難しいかもしれません。

ですが、空が暗い状態でさえあれば、星を結べばすぐに矢の姿を想像できる、とても形の整った星座です。
そのせいもあってか、たいへん古い歴史をもつ星座で、紀元前1200年ごろにはすでに知られていたといわれています。

や座は、夏の大三角の中にあります。
暦の上ではもうすっかり秋ですが、まだまだ「夏の大三角」目立っていますよ。
これからだんだん空気が澄んできて星を見る条件は良くなっていきますから、気持ちのいい風の吹く晩には、ぜひ夜空を見上げてみてください。

さて、夏の大三角、今の時期、夜の8時から9時ごろ空を見上げますと、ほぼ天頂、頭のま上あたりにあります。
おさらいすると、長いほうの三角定規に見立てた時、直角の角にあたるのが、こと座のベガ、織り姫でしたね。三角形のなかでいちばん明るい星です。
そして、長い角にあるのが、わし座のアルタイル、彦星。残ったもうひとつの角にあるのが、はくちょう座のデネブです。

や座を探すには、まず彦星、アルタイルを確認しましょう。長い角にある星でしたよね。
つぎに、はくちょう座のくちばしに当たる星、アルビレオを見つけます。
はくちょう座は。デネブから夏の大三角の内側に向かって大きな十文字がたに伸びています。
すぐわかりますよ。アルビレオはその先端にある星です。

このふたつの星、アルタイルとアルビレオの中間あたりをじっと見ていると、ちょうどアルファベットのYの字を横にして伸ばしたような形に星が並んでいるのが見つかります。これが。や座。

Sagitta-01
←や座の探し方
(gifアニメーション)クリックで拡大します。

この、横倒しのYの形をした星の列、意外に目につきやすいので、空の条件さえよければかなり見つけやすい星座ではあるんです。

ただ、市街地などの空が明るい場所では肉眼でみつけるのは正直言ってかなり難しいです。そこでおすすめなのが、双眼鏡で覗いてみること、なんです。
そうしますと、小さな星座であることがかえって幸いして、ちょうど双眼鏡の視野のなかに収まるくらいなんです。

これまでもお話してきていますけれども、こんなふうに双眼鏡で夜空を見てみる、というの、かなりオススメなんです。
お持ちでしたらぜひいちど、夜空に向けてみてください。小さなオペラグラスでもいいんです。

これで星が見えるの、と思われるかもしれませんが、夜空を見てみますと、肉眼では見えていない星が見えてくるようになるんですよ。

や座はちょうど天の川のなかにあります。日本のほとんどの場所では見ることのできなくなってしまった天の川ですが、双眼鏡でのぞいてみると、こまかい星が見えてくる可能性、あります。
そんな細かい星々をバックにした、小さな矢のすがた、ぜひ見つけてみてください。

先ほども言いましたが、これから空気がだんだん澄んできて、条件が良くなっていきます。ホント、おすすめですよ。

さて、この、天の川の中を飛ぶ矢、何を表しているのかについては、ギリシャ神話のなかでいくつかの説があるんですが、一番有名なのは、いわゆる「キューピッドの矢」だというものです。

『弓を持つキューピッド』

『弓を持つキューピッド』
Cupid with his bow. Photographic postcard, 191-. Wellcome Collection. In copyright

キューピッドというのはローマ神話での名前で、ギリシャ神話では「エロス」といいます。
ただちょっとこの「エロス」という名前、日本語的にはあんまりよくないイメージがついてしまっているかも知れませんが、あの、翼を持った子どもの姿のキューピッド「愛の神」のギリシャ名なんです。
ギリシャ語では、後ろ半分をのばしてエロース、と読むようですので、ここではその言い方で行きましょう。

エロースは、美と愛の女神、アフロディーテの息子です。ちなみに、アフロディーテのローマ神話での名前が、ビーナス。有名ですね。
ただし、エロースないしキューピッドが子どもの姿とされるようになったのは後世になってからのことです。
古い時代においては、凛々しい青年の姿とされていたんです。

『エロース像』

『エロース像』
Eros, Corneille van Clève (mogelijk), ca. 1690 – ca. 1700, Public domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

エロースの持つ矢には不思議な力がありました。
これはたいへん有名な話なのでご存知のことと思います。

かれはいつも2本の矢をもっていて、1本が黄金の矢、もう1本が鉛の矢。
黄金の矢で射られると、その時見た人を愛さずにはいられなくり、鉛の矢で射られると、反対に、その時見た人から逃げ回るようになる、というのです。
エロースはこの矢を使って、さまざまないたずらをしました。

彼は大変いたずら好きな神でもありまして、この矢が引き起こした恋愛に関する悲喜このごもの物語がギリシャ神話には数おおく伝わっているんです。

それでは、エロースにまつわる有名な物語をひとつ、ご紹介していきます。

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