ケフェウス座とカシオペヤ座、そして古代エチオピア王家の物語

ケフェウス座とカシオペヤ座をめぐる物語。
このところちょっともったいつけたようになっていたんですが、秋から初冬にかけての星座たちが勢ぞろいするお話、古代エチオピア王家の物語、今日はいよいよお届けできます。

はるかな昔、エチオピアにケフェウスという王さまとカシオペアというお妃がいました。
ケフェウスはとても立派な王様、そしてお妃のカシオペアは、大変美しい女性でした。
この二人の間には、それはそれは美しい王女、アンドロメダ姫がありました。

カシオペアは、日頃から娘の美しさが自慢でなりませんでした。そのため、あるとき、ついこんなことを口走ってしまうんです「アンドロメダの美しさには海の妖精ネレイドたちもかなうまい」と。


果物籠とワイン樽を持つネレイドたち

果物籠とワイン樽を持つネレイドたち
Nereïden met fruitmand en wijnvat omringd door putti, François Bignon, naar Zacharie Heince, 1630 – 1720, , Public domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)


「ネレイド」というは海の神ポセイドンの孫娘にあたる妖精たちです。
ポセイドンもまた、日頃からその美しさを自慢の種にしていたものですから、この言葉は聞き捨てなりません。
人間に馬鹿にされた、と、かんかんに怒ったポセイドンは、巨大な怪物をエチオピアの海岸に差し向けます。

大きな口で海水を吸い込んでは、ものすごい勢いではきだして、巨大な波を起こすという恐ろしいクジラの怪物です。この怪物が星座になったのが「くじら座」です。
怪物は海岸をさんざんに荒らしまわり、人々はおおいに苦しめられました。

じつは…この放送のさい、リスナーさんにいただいた感想で、なるほど!と思ったのが、「エチオピアの国の人々はなんにも悪いことしてないのに、ポセイドンも狭量ではないか」というもの。

まったくもってその通りで、バチを当てて懲らしめるのはカシオペア一人でいいんですよね本来なら。

このあたりを分析するなら、人間にはどうにもならない天変地異や自然災害が、神の所業に模して描かれている、ということになるのでしょうか…。
古代のアニミズム、自然を畏怖する思いがこうしたストーリーにも投影されているのかもしれません。
興味深いことですね。

話を神話に戻して、困りはてたケフェウス王は神にうかがいを立てました。
すると、くだったお告げは「アンドロメダ姫を怪物のいけにえとして捧げよ」というものでした。

王と王妃は嘆き悲しみましたが、他に方法が見つかりません。
アンドロメダ姫は海岸から離れた岩まで小船で運ばれて、鎖で両手をその岩につながれました。
荒れ狂う海の中、アンドロメダ姫は恐ろしさに震えながら生け贄となるのを待ちます。
やがて、沖の方から怪物が近づいてきました。

そのとき。
天馬ペガサスにまたがった英雄ペルセウスが、偶然、そこを通りかかりました。
ペルセウスは、見たものすべてが石になってしまうという恐ろしい怪物メドゥーサを退治して、故郷に戻る途中だったのです。

海からつきだした岩に鎖でつながれた女性、そして迫りくる怪物。
これを見たペルセウスは、女性を助けなければ!と、怪物に戦いを挑みます。
ペルセウスの剣さばきに、怪物がひるんだ一瞬、ペルセウスは、持っていた袋からメドゥーサの首をとりだして、怪物に突きつけます。
怪物はたちまち石になってしまい、海に沈んでいきました。


アンドロメダを救うペルセウス

アンドロメダを救うペルセウス
The Miriam and Ira D. Wallach Division of Art, Prints and Photographs: Print Collection, The New York Public Library. “Perseus Rescuing Andromeda” The New York Public Library Digital Collections. 1730.

 

こうしてアンドロメダ姫とエチオピアの国を救ったペルセウスは、姫とめでたく結ばれることになり、二人は幸せに暮らしたということです。
のちに、天馬ペガサスは秋の四辺形・ペガスス座になり、ペルセウスもまた星座となって、いまもアンドロメダ座のすぐそばで光っています…。

と、有名な、本当に有名なこの物語なんですが、実はこのシーンには続きがあるんです。
アンドロメダとペルセウスが結ばれることになって、盛大なお祝いがひらかれたのですが、このお祝いの席に1人の男が大勢の部下を連れて乱入してくるんです。

それは、ケフェウス王の弟で、ピネウスという人物。
実は、ピネウスはアンドロメダ姫の婚約者だったのです。
「アンドロメダは俺のものだ!どこの馬の骨とも知れないこんな男に渡す訳にはいかない!」というわけです。

これに対しケフェウス王は
「生贄になるアンドロメダを救うどころか、鎖を掛けて岩に縛りつけたのは、ほかでもない、許婚だったお前ではないか!」
「卑怯者にアンドロメダを妻にする資格はない、今すぐたち去るがいい!」
と叱りつけます。
しかしピネウスは聞き入れず、部下ともども、列席者たちに襲いかかろうとします。

そこでペルセウスは立ち上がると、こう叫びました。
「わたしの友となる者たちは目を背けていろ、決してこちらを見てはならない!」
彼はそう言い放つやいなや、メドゥーサの首を高々とかかげました。
もちろん、ピネウスとその一党は1人残らず石になってしまいました・・。
まあこれは逆恨み、その報い、ということでしょうねえ。


石になったピネウスと部下たち

石になったピネウスと部下たち
Phineus en zijn volgelingen in steen veranderd, Carlo Cesio, naar Annibale Carracci, 1656, Bruikleen van de Rijksakademie van Beeldende Kunsten, Public domain, via The Rijksmuseum (the national museum of the Netherlands)

 

それから後日談をもうひとつ。
カシオペアとケフェウスも、その後、空にのぼって星座になりました。
しかしポセイドンの怒りはおさまらず、二人が他の星座のように海に入って休むことができないようにしてしまいました。
それで、この二つの星座は一年中空にいるのだ、ともいいます。

というわけで、それにしても、ロマンチックで壮大な物語です。
神話や伝説は、民族や時代は違っても、どこか共通するところがあったりするものです。
「白馬に乗った王子様がお姫様を救いに来る(このおはなしでは天馬ですが)」あるいは「悲劇のヒロインがハッピーエンドを迎える物語」そんなストーリーの原型のひとつなのかもしれません。

ケフェウス座、カシオペヤ座。アンドロメダ座、ペルセウス座。ペガスス座、そして、くじら座。古代エチオピア王家の物語に登場する星座たちが輝く、晩秋から初冬にかけての夜空。

いかがでしょう。
そんなことを思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

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