みずがめ座&みなみのうお座〜「南のひとつ星」がつなぐ二つの星座〜永遠の美少年ガニュメデスとゼウスの物語

さて、みずがめ座にまつわる物語です。

ギリシャ神話で、もっとも一般的なみずがめ座のお話は、トロイの国の王子にして永遠の美少年、ガニュメデスとゼウスの物語です。

これまでも何度かお話してきていますように、神々の王ゼウス、彼は、まあじつに恋多き神でありまして、まあ、悪くいうと浮気者なんですが、その相手は何も女性とは限らなかったというお話です。

現在トルコがあるアナトリア半島にあったといわれるトロイの国に、ガニュメデスという王子がいました。

彼は大変な美少年で、その美しさにはどんな美女もかなわないと言われ、その噂は天上界にまで届くほどでした。

ルーヴル美術館にあるガニュメデスの胸像
Portrait of Ganymede, Louvre Museum, Public domain, via Wikimedia Commons

ちょうどそのころ、ゼウスは神々の宴会でお酌をする役目の人物を探していました。それまではとある女神がお酌をつとめていたんですが、この女神がお嫁に行ってしまって、その役が出来なくなってしまったのです。

そこへ美少年ガニュメデスの噂を聞きつけたゼウスは、さっそくトロイに出かけました。そして、ガニュメデスを一目見て、その美しさにすっかり夢中になってしまったのです。

ゼウスは大きな鷲に姿を変え、ガニュメデスを空につかみあげてオリンポスへさらってきてしまいました。
ちなみにこの時のゼウスの姿がわし座になったともいわれています。

『ガニュメデスの誘拐』
“Ganymede abducted by Jupiter” Eustache Le Sueur, Public domain, via Wikimedia Commons

宮殿に着いたゼウスは、ガニュメデスに永遠の若さを与え、酒宴にはべらせて、不老不死の神の酒、ネクタルのお酌をさせたと言われています。

神々にお酒を注ぐのはたいへん名誉ある仕事ですから、ガニュメデス自身は光栄に感じていましたが、ただ、急に自分がいなくなったことを両親がどんなに心配しているかと思うと、心が痛みました。

これを知ったゼウスは両親であるトロイの国王夫妻の元に伝令を使わして、事の次第を知らせます。そして、息子を失った悲しみを少しでも和らげようと、ガニュメデスの姿を星座にして空にかかげたといわれてます。

ところで、ゼウスはローマ神話ではジュピター。「ジュピター」は、木星の名前になっています。
木星には沢山の衛星があるんですが、その多くには、ゼウスの愛人たちの名前がついています。
なかでも特に大きい4つの衛星をガリレオ衛星というんですが、そのなかのひとつが、「ガニメデ」。
これは唯一、男性であるガニュメデスの名前から取られたものなんです。
今も、彼はゼウスのそばにはべっているんですね。

さて。 前回お話したやぎ座は、みずがめ座のとなりにあります。
やぎ座は「下半身が魚になった山羊」の姿でした。
そして、今日のみずがめ座と、みなみのうお座、そのほかにも、この近辺には、うお座、くじら座、それから、エリダヌス座といって川の流れが星座になったもの。「いるか座」もご紹介しましたよね。
この付近には、水や海に関係する星座がたくさん集まっているんです。

これは、星座のふるさとである古代メソポタミアでは、このあたりに太陽が来る時期…これはどういう意味かというと、昼間、太陽が出ていると星はみえませんよね、でも、見えないだけで、実際には太陽のバックには星があるんです。見えなくても、太陽のバックに今どの星座があるかは計算によってわかります。
じつはこれが占星術のおおもとにもなっているんですが、古代メソポタミアでは、太陽のバックががこのあたりの星座になる時期が、ちょうど雨期と重なっていたんです。
そのため、当時の人々は、この一帯に天の「海」があって、そこから雨が降ってくると考えていたようです。

雨をもたらす、天の「海」。その中心にあるのがこのみずがめ座です。

メソポタミアというのは砂漠に近い地域ですから、水という存在のもつ意味、大きかったはず。
おそらく、だからでしょう、みずがめ座を構成する星たちには、特に明るい星ではないのにもかかわらず固有の名前をもつものが多くて、しかも、たとえば「王様の幸運」「最高の幸運」「秘密の幸運」といったふうに、やけに縁起のいい名前がついているんです。
こうしたことからも、当時の人々が目立たない星の集まりであるこの星座を、とても大切に考えていただろうことがうかがえます。

天の「海」の中心、みずがめ座。そこから流れ出す水は、生きとし生けるものに「生きるちから」を与える、まさに天の恵み、命の水。

いかがでしょう。そんなことを思い浮かべながら、晴れた夜には、星をみあげてみませんか。

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